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「男の産休」導入から1年、男性の育休取得は進んだか? 女性の6割「変化なし」...でも、少しずつ前進 ネックは「とるだけ育休」の大迷惑パパ

   2022年4月に、段階的に男性の育児休業を促進する改正育児・介護休業法が施行されて1年。男性の育休事情はよくなっただろうか。

   仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年4月6日、「法改正から1年、男性の育休取得促進で女性が感じた変化」という調査結果を発表した。

   「変化はない」という女性が6割だが、少しずつ前に進んでいる。しかし、最大のネックは休みだけ満喫するダメパパの「とるだけ育休」のようで......。

  • 育休を取ってくれたことはうれしいが(写真はイメージ)
    育休を取ってくれたことはうれしいが(写真はイメージ)
  • 育休を取ってくれたことはうれしいが(写真はイメージ)

女性の9割以上が「男性は育休を取得するべき」

   2022年4月の改正育児・介護休業法施行によって、男性は子どもの誕生直後8週間以内「最大4週間」の出生時育児休業が取得できるようになった。女性の産後休業が産後8週間とされていることから、「男の産休」とも言われている。

   また、企業側にも男性従業員が育休を取りやすくする環境の整備や、該当者に個別に制度を周知し、とるかとらないか意向を確認することが義務付けられた。これまで育休制度があっても取得しづらかった男性が置かれていた立場の改善も期待されるが......。

   しゅふJOB総研の調査では、まず、男性の育休取得を促進する法律を「知っていたか」を聞くと、「詳しく知っていた」が5.1%、「知っていた」が75.3%、「知らなかった」が24.7%となり、8割以上が知っていたという結果が出た。

   これを男女別にみると、女性では「詳しく知っていた」と「知っていた」を合わせて75.3%が知っており、男性では「知っていた」人は72.2%と、やや女性より関心が低い結果が出た【図表1】。

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(図表1)男性の育休取得を促進する法律を知っていたか。男女比較(しゅふJOB総研調べ)

   続いて、女性に「男性の育休についてどう思うか」と聞いた回答を、改正法施行前の2022年の調査と比較した。その結果、「必ず取得するべきだと思う」と「状況によっては取得するべきだと思う」を合わせた「取得するべきだ」とする意見が、法改正前の2022年では87.5%だったが、2023年には9割以上の91.8%に増えた【図表2】。改正法施行の効果があったようだ。

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(図表2)男性の育休取得をどう思うか。改正法施行前と比較(しゅふJOB総研調べ)

   また、女性に「男性の育休についてどう思うか」と聞いた回答を、子どもの人数別に比較すると、「取得するべきだ」とする意見は「子どもがいない」人が87.5%だったのに対し、「子ども1人」の人が89.3%、「子ども2人以上」の人が94.5%と、子どもの数が多い人ほど必要性を認める意見が多くなった【図表3】。

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(図表3)男性の育休取得をどう思うか。子どもの数別の比較(しゅふJOB総研調べ)

   ところで、改正法施行後に男性の育休取得に変化はあったのだろうか(複数回答可)。

   これについては、「変化を感じたことは何もない」が6割以上の62.6%に達した。しかし、「男性の育休取得者が増えた」(15.3%)、「育休取得の意向を聞かれる男性が増えた」(9.6%)、「女性の社会進出が促進された」(9.2%)、「職場で性別役割分業を感じなくなった」(5.4%)、「家庭で性別役割分業を感じなくなった」(4.9%)と、少しずつだが前向きの回答が多くなっている【図表4】。

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(図表4)改正法施行後の男性育休取得、変化を感じたことがあるか(しゅふJOB総研調べ)

「夫と2人で、初めての寝返りや腹ばいを見られるのはとても貴重」

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イクメンの夫には感謝(写真はイメージ)

   女性たちのフリーコメントをみると、男性が育休をとることの大切さを訴える意見が目立った。

「育休がもっと当たり前に、ならないといけない。とる人が、好奇の目を向けられる事が心外です。育休が、個人のためでなく社会的に必要という風潮にならなければ人口の減少は止まらない。もっと育休を温かい目で、見守ってくれる世の中になって欲しい。産休、出産、育児、子育てでがむしゃらに頑張って来た日々が遠く懐かしい時代でした」(70代:パート)
「子供を増やすのであれば、育休は男女平等に取るべき。妊娠中、出産、産後と心も体も変化する妻に寄り添うことが大切であり、夫婦仲にもとても影響すると思う。2人で初めての寝返りや腹ばいを見られるのはとても貴重」(30代:パート)
「男性社会が変わるようであれば、大賛成。男性も、育児を通して成長する部分もある気がします」(60代:今は働いていない)
「男性も育児に参加できて、良い時代になったなあと思ったが、出世に影響があるのか心配。育休を取ると出世率もアップする仕組みがあれば、なおよい」(60代:正社員)
「朝の通勤途中でも、ベビーカーや自転車で父親が子供の送迎をしているのがよく目につくようになってきました。男性の育児参加は手放しで大賛成ですが、まだまだ制度的に不十分な気がします」(50代:パート)

   などと、制度面でもっと工夫が必要だという意見も多かった。

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生まれたらすぐ「男の産休」をとろう(写真はイメージ)

   また、まだとりにくい空気が職場にあるという指摘も寄せられた。

「男性の育児休業取得が国で推進されても、職場環境で歓迎されなければ取得するのはまだまだ難しい。同じように会社で推進していても、現場ではいい顔をされないこともまだある」(30代:今は働いていない)
「とても良いと思いますが、その分ほかの人の仕事に負担がかかってもいけないので、短時間、短期のパートやアルバイトを増やすべきです」(50代:パート)
「どんどん取ってもらう代わりに、会社での仕事のフォローはしっかりしてほしいと思う」(50代:パート)
「取れる職種と取れない職種があり、不公平。男性が数週間育休を取ったところで何の役何も立たず、職場に迷惑をかけるだけなので必要ない」(40代:パート)
「男性が育休を取って、職場に戻った後に、今まで通り復帰出来るのか心配です」(60代:パート)

   ほかに、収入面の心配をする人もいた。

「営業だから、育休取得すると1年間の給料が減ってしまう。2人とも休むとお金の面で心配。休んでほしいとは思うけど、金銭面を考えると自分が1人で頑張るしかないかと思う」(30代:パート)

「男性にも妊婦体験、出産体験、出産講座をもっと普及させて」

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「とるだけ育休」なら大迷惑(写真はイメージ)

   一方、男性の意識改革が求められている。ただ休みを取るだけで育児をしない「取るだけ育休」を批判する意見が多かった。

「育児休暇を取得しても、育児をしないでスマホいじっているとか、そもそも育児や家事の手伝いではなく、子供と2人きりになっても全部できるくらいの積極的に動く姿勢がなければ、育休取っても邪魔なだけだと思う」(50代:今は働いていない)
「取得しても休みだと勘違いしている男性もいて、かえって手間が増えたと嘆いていた親戚がいました。取得する前に講習などで、どのようなことを手伝ってもらいたいのか、きちんと考える場を設けることを義務付けたらよいと思う」(50代:正社員)
「家事や子育てができない、やらないならば育児休業を取って家にいられても邪魔なだけ。夫婦同時に取らずに交互に育休をとり、男性もしっかり家のことをしてこそ意義のある育休になる」(40代:パート))
「しっかり育児をサポートしてくれるなら休んでほしい。俺よりママのほうがうまいからや~、俺がやると泣くから~など、言い訳して結局やらないなら仕事していてほしい」(40代:パート)
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しっかり赤ちゃんの面倒を見てほしい(写真はイメージ)

   そして、こんな提案も。

「育児休業だけでなく、出産前から休業をとりやすいようなサポートがあればいい。また、男性にも妊婦体験、出産体験、出産講座などをもっともっと普及させるべき。出産が命がけのことを知ることを義務にするべき」(40代:パート)
「まとまった休業ではなく、育児で必要な時にいつでも単発で取れる有休のようにしたほうが、いろいろな意味で無駄がないし、都合がよいと思う」(40代:パート)

   調査を行った「しゅふJOB総研」研究顧問の川上敬太郎氏はこうコメントしている。

「改正法施行から1年が経ったことを受けて、『変化を感じたことがあればお教えください』と質問すると『変化を感じたことは何もない』との回答が62.6%。しかしながら、『男性の育休取得者が増えた』15.3%、『育休取得の意向を聞かれる男性が増えた』9.6%と、少ないながらも効果を感じている声が見られます。男性育休取得の促進は段階的に施行されていることも踏まえると、まだ日は浅いものの効果が表れる気配は感じられるようです。
フリーコメントに寄せられた声の多くは、男性育休取得促進を支持するものでしたが、育休を取得するだけで育児をしない『とるだけ育休』を危惧する声が複数見られました。男性の育休取得促進と同時に、ただ休みを取得するだけで育児をしない『とるだけ育休』にならないよう、しっかりと育児を行うことについても促進することが必要です」

   調査は2023年3月15日~22日、インターネットを通じて女性554人、男性54人からアンケートを行なった。(福田和郎)