株主還元策の「一過性の自社株買い」に落とし穴
ところで、近年、株主還元策として自社株買いが増加の一途をたどっているが、そこに落とし穴はないのか。
2022年度には9兆5467億円という過去最高額に達した自社株買い【図表5】と、東証の企業改革のインパクトに注目したのが、第一生命経済研究所研究理事の佐久間啓氏だ。
佐久間啓氏はリポート「2022年度、総株主還元(自社株買い+配当)は過去最高の見込み~東証の『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』のインパクトは?~」(4月21日付)のなかで、こう指摘する。
「総還元利回りが高ければ高いほど良いというわけでもない。投資家からすれば、利益成長による時価総額の拡大があってこそ株主還元も期待できるわけで、企業にはそうした経営戦略、中計の中で株主還元をどう位置付けていくかが求められている」
「この観点で3月31日に東証から公表された『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について』は、市場関係者は必ず目を通すべきものだ」
「株主還元との関連では、『資本収益性の向上に向けてバランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているかを分析した結果、自社株買いや増配が有効な手段と考えられる場合もありますが、自社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待するものではありません。継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待するものです』としている」
「これは、裏を返せば一過性の自社株買いや増配のみでお茶を濁してきたかもしれないけど、それではだめですよ、という東証からのダメ出しだ。自社株買いや増配の発表があると、株価は上昇するものの、その上昇がほんの2~3日程度の一過性で終わる場合もあれば、株価の水準自体を一段押上げ、企業の印象を大きく変えるほどインパクトがある場合もある」
そして、佐久間氏はこう結んでいる。
「東証がROE8%だけでなく、PBR1倍割れ、バランシートに言及した意味は大きい。今回の東証の要請はストレートで具体的だ。これから資本コストや資本収益性を意識した経営の第2幕が始まる。今後はバランスシートコントロールに質的変化が求められるということだ。これらによって東京市場に質的に大きな変化が期待されるのであれば、アベノミクス相場で買い越した株を足元では大方売り払った外国人投資家もまた東京に目を向けてくることも考えられる」
「これから3月期決算の発表が本格的に始まる。投資家は売上、利益にだけ注目するのでなく、バランスシートの対応を含め、企業がどう成長力や資本収益性を高めていこうとしているのかにも目を凝らしていくことが求められている」
(福田和郎)