「植田日銀」初政策会合にサプライズあり? エコノミストが指摘「順当なら無風だが...政策修正に5割の可能性」「それより怖い1ドル=150円の円安危機」

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   サプライズがあるのか、ないのか? 市場が注目する、日本銀行の植田和男総裁にとって初の政策決定会合が2023年4月27日、28日に開かれる。

   植田氏が就任会見で「ハト派」ぶりを示したことから、焦点であるイールドカーブ・コントロールの修正には「動かない」との見方が市場では強い。しかし、「初手から動くのでは」との不安もくすぶっている。

   エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 日本銀行の植田和男総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)
    日本銀行の植田和男総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)
  • 日本銀行の植田和男総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)

同時に発表される「展望レポート」の物価上昇率にも注目

   日本銀行は、植田和男総裁、氷見野良三副総裁、内田真一副総裁の新体制で初めてとなる金融政策決定会合を開くが、そこで注目されるのは次の2点だ。

   (1)最大の焦点は、現行の「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和」に関し、何かしらの変更が行われるか否かだ。結果次第では、債券市場や円相場、日本株に大きな影響を与えることになる。

   特に、政策変更の入り口にあたるイールドカーブ・コントロールの修正については、植田総裁が就任会見で否定したこともあって、市場では「無風に終わる」との見方が強いが、不安もくすぶる。前任者の黒田東彦氏が初の政策会合でいきなり新たな量的緩和策を発表、市場に大ショックを与えた先例があるからだ。

   (2)同時に発表される「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の「基本的見解」も注目だ。前回1月時点における政策委員の物価上昇率(対前年度比)見通しの中央値は、2024年度がプラス1.8%だったが、今回は新たに2025年度の見通しが公表される。

   4月17日付時事通信社によれば、物価上昇率の見通しについて、前年度比1%台後半を軸に検討されているという。日銀は「2%」の物価目標を掲げており、仮に物価上昇の定着に慎重な見方が示されれば、金融緩和継続の有力な根拠の1つになる。

「YCCの歪みが解消されたため、日銀は当分、動かないだろう」

日本銀行本店
日本銀行本店

   エコノミストはどう見ているのか。

   「YCCの変動幅拡大は4月の会合で決定されるとみていたが、7月会合に先送りとの見方に変更した」とするのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川雅浩氏はリポート「2023年4月日銀金融政策決定会合プレビュー」(4月19日付)のなかで、その理由について日本国債の利回り曲線のグラフ【図表1】を示しながらこう述べている。

(図表1)日本国債の利回り曲線(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表1)日本国債の利回り曲線(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
「就任会見時、YCCについて、植田総裁は『現状の経済、物価、金融情勢を鑑みると、現行のYCCを継続するということが適当』と述べており、内田副総裁は、YCCによる市場機能の低下という副作用については、昨年(2021年)12月の許容変動幅拡大などで対応し、『今はその状況を見極めていくフェーズ』と発言しています。これらの言葉を額面通りに受け取れば、YCCは現行方針でしばらく継続と解釈されます」
「また、国債の利回り曲線の歪みが解消されつつあることや【図表1】、米景気減速などで国内経済に下振れリスクがあることを踏まえると、早急なYCC修正の必要性は低下したと思われます」

   植田総裁らの否定発言や、イールドカーブ・コントロールの歪み(【図表1】の青線グラフの凹み)が解消されたことなどを「サプライズなし」の根拠とした。

   また、「展望レポート」の物価見通しについても、市場予想の範囲だろうと予測した。

「今回の会合で、基本的な緩和の枠組みが維持され、展望レポートでも物価上昇の定着に慎重な姿勢が確認された場合、国内市場では長期金利低下、円安、株高の反応が見込まれますが、緩和継続は大方予想されており、反応は限定的と思われます。そのため、円債市場や円相場は5月2日、3日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果に、日本株はそれに加え、日米企業決算の内容により敏感に反応すると考えています」

植田総裁、内田副総裁の会見の行間を深読みすると、真意が...

異次元の金融緩和(写真はイメージ)
異次元の金融緩和(写真はイメージ)

   一方、「植田日銀」は初手から動く可能性があるとみるのは、明治安田総合研究所フェロー・チ-フエコノミストの小玉祐一氏だ。

   小玉氏はリポート「植田日銀の初動に注目~4月会合で動く可能性は残る」(4月18日付)のなかで、就任記者会見での植田総裁と、政策実行担当者である内田副総裁の発言内容を一字一句詳細に分析、隠された意図を探っている。

   それは、「YCCの修正は、債券市場への投機攻撃を避ける必要上、事前に示唆するのは難しく、たとえ早期の変更が念頭にあったとしても、これ以上の踏み込みは難しかった」からだ。そこで、会見内容を深読みすると――。

   植田総裁のYCCに対する発言:「現状の経済・物価・金融情勢にかんがみると、現行のYCCを継続するということが適当」と、改めてYCCを継続する姿勢を示した。一方で、「本当に安定的・持続的に2%に達する情勢かどうかというのを見極めて、適切なタイミングで正常化に行くのであれば、行かないといけないですし、それはなかなか難しいということであれば、副作用に配慮しつつ、より持続的な金融緩和の枠組みが何かということを探っていく」と、将来的な修正作業には含みを残した。

   内田副総裁の発言:「今、日本銀行が直面している課題は、いかに工夫を凝らして、効果的に金融緩和を継続していくかということ」と、「工夫を凝らす」余地があることを認めた。

10年の金融緩和で経済はよくなったか(写真はイメージ)
10年の金融緩和で経済はよくなったか(写真はイメージ)

   こうした発言の「真意」から小玉氏はこう指摘する。

「個人的には、4月最初の金融政策決定会合で動いても驚かない。YCCのスキームの弱点がすでに明確になっている以上、問題を先送りしてもいいことはないように思える」
「植田総裁の就任会見を素直に読む限り、4月の初回会合は無風と見るのが自然だが、10年国債利回りの変動許容幅の再拡大などの修正に踏み切る可能性も半分程度は残っているとみておきたい。
その際、すでに形骸化している0%の目標も取っていい。市場も、ターゲットの水準自体はもはや意識していない。レンジさえ残れば、YCCは続いているとの説明は可能である。操作目標とする年限の短期化も依然として候補である」

   また、小玉氏は植田総裁の「誠実な対話能力」に期待を示した。

   黒田東彦前総裁が、記者会見でも記者からの鋭い質問に正面から答えないケースが増え、ついに記者会見が形骸化してしまったと指摘する。

「植田総裁はもともと弁舌の徒というタイプではないが、国会の所信聴取も、就任会見の説明もわかりやすく、誠実に答えようとする姿勢も印象的だった。また、経済学者として経済や金融政策の理論に造詣が深いのはもちろん、日銀審議委員を7年の長きにわたって務め、日銀の実務や内情も熟知している」
「白川方明(まさあき)元総裁の会見が、しばしば『白川ゼミ』と称されたように、植田総裁の会見も毎回啓発的な会見になることが期待できそうである」

目前に迫る円安「1ドル=150円」の危機、どうする植田総裁?

日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
日本経済はどうなる?(写真はイメージ)

   ところで、現在、米の金融不安が落ち着いたため、円安がじわじわ進んでいる【図表2参照】。

   このまま米長期金利が4%に近づくと、植田総裁の姿勢如何では、1ドル150円という円安水準に向かうこともあり得る、と警戒するのは第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生氏だ。

(図表2)米長期金利とドル円レートの推移(第一生命経済研究所の作成)
(図表2)米長期金利とドル円レートの推移(第一生命経済研究所の作成)

   熊野氏はリポート「円安が再び140円台に向かって進む~日銀・FRB・貿易赤字の点検~」(4月24日付)のなかで、「目先の注目は4月末の日銀政策決定会合だ」としてこう指摘した。

「植田総裁がよりハト派的な姿勢を強調すると、その分、10年金利の上限見直しが遠のく。筆者(=熊野氏)は、いずれは金利上限の変動幅を動かすとみているが、すぐではなさそうだ。今後、しばらくは長期金利の変動幅さえ当分は動かさないという見方はより強まるだろう。それに反応するかたちで、円安は現在よりも進行することが予感させる」
「今後の展開で重要なのは、米長期金利が4%に接近したときだ。現在、日本の10年金利はすでに0.50%近くまで接近している。目先、米長期金利が上昇すれば、日本の10年金利に上昇圧力がかかることは間違いない。そこが植田総裁の決断のしどころだ。ここで副作用を強調して、上限引き上げをする構えを採れば、円安には歯止めがかかるだろう」
「反対に、10年金利を0.5%に抑えるために、連続指値オペを打てば、円安が1ドル150円に向かって進むだろう。どちらの選択を採るかで、ドル円の行方は大きく道が分かれる」
東京証券取引所
東京証券取引所

   そして、熊野氏は今後のシナリオをこう描く。

「今後のシナリオは、(1)指値オペを打つ、(2)上限を引き上げる、の2つの選択の可能性がある。筆者(=熊野氏)は、黒田路線の急激な修正を印象づけないために(1)を選択する公算が高いと考える」
「一方、複雑なのは、指値オペを打たなかった場合だ。10年金利が0.5%を上回って上昇していくことになるだろう。そうなると、変動幅の上限0.5%は有名無実化する。YCCの長期金利コントロールは骨抜きになっていく。当然、植田総裁はそれに対する説明責任を求められる。そこで、近い将来の会合では変動幅の上限を引き上げるということを示唆すれば、円安は止まる」
「逆に、金利上昇を容認しつつ、長期金利の変動幅上限の引き上げに慎重な姿勢をみせるとどうなるか。その場合は円安だろう。日米長期金利差は縮小するから、円高になってもおかしくはない。しか し、敢えて変動幅の上限見直しに動かないことで、投資家たちは、植田総裁が『タカ派方向の選択ができない』と評価する。金利正常化に旗色を鮮明にしないから、ドル円は円安方向になるだろう」

   4月末の決定会合は、その分岐点になると熊野氏は指摘する。そして、選択肢の中でメインシナリオは、ひとまずは指値オペを打って0.50%の上限を守るとみている。これは円安がもっと進むシナリオだ。いずれにしろ、今後の注目点は、米長期金利が4%まで動いたときだ。

   「どうする、植田総裁?」と熊野氏は問いかける。(福田和郎)

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