目前に迫る円安「1ドル=150円」の危機、どうする植田総裁?
ところで、現在、米の金融不安が落ち着いたため、円安がじわじわ進んでいる【図表2参照】。
このまま米長期金利が4%に近づくと、植田総裁の姿勢如何では、1ドル150円という円安水準に向かうこともあり得る、と警戒するのは第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「円安が再び140円台に向かって進む~日銀・FRB・貿易赤字の点検~」(4月24日付)のなかで、「目先の注目は4月末の日銀政策決定会合だ」としてこう指摘した。
「植田総裁がよりハト派的な姿勢を強調すると、その分、10年金利の上限見直しが遠のく。筆者(=熊野氏)は、いずれは金利上限の変動幅を動かすとみているが、すぐではなさそうだ。今後、しばらくは長期金利の変動幅さえ当分は動かさないという見方はより強まるだろう。それに反応するかたちで、円安は現在よりも進行することが予感させる」
「今後の展開で重要なのは、米長期金利が4%に接近したときだ。現在、日本の10年金利はすでに0.50%近くまで接近している。目先、米長期金利が上昇すれば、日本の10年金利に上昇圧力がかかることは間違いない。そこが植田総裁の決断のしどころだ。ここで副作用を強調して、上限引き上げをする構えを採れば、円安には歯止めがかかるだろう」
「反対に、10年金利を0.5%に抑えるために、連続指値オペを打てば、円安が1ドル150円に向かって進むだろう。どちらの選択を採るかで、ドル円の行方は大きく道が分かれる」
そして、熊野氏は今後のシナリオをこう描く。
「今後のシナリオは、(1)指値オペを打つ、(2)上限を引き上げる、の2つの選択の可能性がある。筆者(=熊野氏)は、黒田路線の急激な修正を印象づけないために(1)を選択する公算が高いと考える」
「一方、複雑なのは、指値オペを打たなかった場合だ。10年金利が0.5%を上回って上昇していくことになるだろう。そうなると、変動幅の上限0.5%は有名無実化する。YCCの長期金利コントロールは骨抜きになっていく。当然、植田総裁はそれに対する説明責任を求められる。そこで、近い将来の会合では変動幅の上限を引き上げるということを示唆すれば、円安は止まる」
「逆に、金利上昇を容認しつつ、長期金利の変動幅上限の引き上げに慎重な姿勢をみせるとどうなるか。その場合は円安だろう。日米長期金利差は縮小するから、円高になってもおかしくはない。しか し、敢えて変動幅の上限見直しに動かないことで、投資家たちは、植田総裁が『タカ派方向の選択ができない』と評価する。金利正常化に旗色を鮮明にしないから、ドル円は円安方向になるだろう」
4月末の決定会合は、その分岐点になると熊野氏は指摘する。そして、選択肢の中でメインシナリオは、ひとまずは指値オペを打って0.50%の上限を守るとみている。これは円安がもっと進むシナリオだ。いずれにしろ、今後の注目点は、米長期金利が4%まで動いたときだ。
「どうする、植田総裁?」と熊野氏は問いかける。(福田和郎)