AIの画像認識の技術に貢献する「トポロジー」とは何か
では、残りの(2)「微分積分」、(3)「線形代数」、(4)「トポロジー」も順にみていこう。
(2)「微分積分」もAIに活用されている。
AIは、人間の指示を待つことなく、ひとりでどんどん「学習」する。何を学習するかと言うと、自らがはじき出した予想と実際の値がどれくらいずれているかを調べ、その誤差をできるだけ小さくするためには、どの入力値を重要視すべきを学習する。
多くの場合、誤差は「目的関数」と呼ばれる関数として表される。誤差が最も小さくなるのは、この関数の値が最少になるときで、その点における関数のグラフの接線の傾きは0になる。微分とはある点におけるグラフの傾きを求めたり、グラフの概形を捉えたりする計算だ。
また、距離や時間のような連続量と呼ばれる数値に関する確率を求めるには、「確率密度関数」と呼ばれる関数のグラフと横軸で挟まれたある区間の面積を求める必要があり、それには積分が使われる。
(3)「線形代数」は、連立方程式をシステマチックに解くための手法だ。
中学で学んだxとyの連立方程式は、未知数の数が2つしかないので、簡単に解けた。線形代数にはどんなに未知数の数が増えても連立方程式を型通りに解く手法がある。
ベクトルや行列の基礎を解説し、これらを使うと、複数の数式が1つにまとまり、簡略化されるのでプログラムも簡潔になる。これが、AIには好都合だ。AIにとって線形代数は「もっともわかりやすい言葉」である、と説明している。
(4)「トポロジー」は、新しい図形の見方だ。
「やわらかい幾何学」と呼ばれることもあるトポロジーの世界では、図形を自由に伸びるゴム膜でできているものと考え、引っ張ったり、ぐにゃぐにゃに曲げたりして、コーヒーカップとドーナツのようにまったく違って見える図形どうしも「同じ」にしてしまう。
「同じ」を拡大解釈し、図形を抽象化するトポロジーの研究は、AIの画像認識の技術に大きく貢献しているという。
ここでは、AIとの関連を中心に述べたが、主な概念について、参考書的に数式や図を使って解説しているので、それぞれの分野の入り口までは到達できるだろう。(渡辺淳悦)
「文系でもわかるAI時代の数学」
永野裕之著
祥伝社新書
1034円(税込)