「まさか」「だまされた」......。「¥1680」と表示されていれば、誰でも「1680円」と思うだろう。ところがクレジットカードの支払額を見ると、なんと、20倍の「3万2916円」!
これは、「¥」マークが、日本円と中国人民元の共通の通貨マークであることを悪用した通販サイトの「マジック」なのだ。
今年に入り、「¥」マークをめぐる被害が急増しているため、国民生活センターが2023年4月19日、「その『¥』表示は、本当に日本円の表示ですか?」という注意喚起の警告リポートを発表した。その巧妙な手口を見ると――。
円(YEN)、「元」(YUAN)ともに、頭文字が「Y」だから「¥」になった
「¥」は日本の円(YEN)を表す通貨記号だが、中国の人民元の通貨記号でもある。これは「元」が英語で「YUAN」と表示され、頭文字がともに「Y」であることから、日本と中国で同じ通貨記号となったとされる。
歴史的経緯には諸説あるが、明治期に日本と交易を行った英米人により、日本の通貨である「円」は「EN」ではなく「YEN」と綴られた。ドルの通貨記号「$」の習慣に合わせ、その頭文字「Y」に同様の横線を入れたものが「¥」の由来だ。横線を入れたのは「Y」と区別するため――というのが一般的な説だ。
一方、中国では本来の通貨単位は「圓」だったが、貨幣を表すのにふさわしい、画数が少ない「元」に代替した。「圓」と「元」が同じ発音だったこともある。「元」は英語では「YUAN」と綴られ、この頭文字「Y」に横線を2本加えた記号「¥」が普及することになった。こうして偶然、「円」と「元」が同じ通貨記号になったというわけだ。
このことは、日本ではあまり知られていないが、中国旅行をしたことがある人なら、現地でショッピングする際、「¥」マークが盛んに表示されていることから「人民元」の値段であることは先刻承知だろう。
4月18日に記者会見した国民生活センターによると、今年1月上旬からある通販サイトで「¥」マークをめぐる被害相談が相次ぎ、4月13日までに約100件に達した。しかも、文字を美しく書く技法「カリグラフィー」のガイドブックを販売している同じ通販サイトだ。被害者の多くが「¥」マークを日本円と思い込んでいた。