電気料金1年で4割増も...「まったく価格転嫁できていない企業」は6割近くに

   ロシアによるウクライナ侵攻の影響やエネルギー価格の高騰などを背景に、電気料金の値上げが続き、企業の負担が重くなっている。

   企業信用調査の帝国データバンクによると、電気料金の増加分を「販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか」と聞いたところ、「まったく価格転嫁できていない』と答えた企業が57.2%と、6 割近くを占めた。2023年4月18日の発表。

   政府は「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を打ち出し、毎月の電気・ガス料金の値引きを1月の使用分(2月請求分)からスタートした。

   支援に乗り出したかたちだが、4月からは送電網の利用料にあたる「託送料金」の上昇で、東京電力など一部の電力大手が電気料金の値上げを実施しており、価格上昇の流れは止まりそうにない。

電気料金、1年前と比べて「増加」した企業は96.3%

   調査によると、「電気料金の総額が1年前と比べてどのように変化したか」を聞いたところ、「20~40%未満【増加】した」と答えた企業が全体の 33.1%を占め、最も高かった。次いで「【増加】40~60%未満」の21.1%、「【増加】20%未満」の20.0%が続いた。

   「増加」した企業は合わせて93.6%に達し、9割を超える企業で1年前より電気料金の総額が増加した。

   「変わらない」と答えた企業は3.3%、「減少」は1.0%だった。【図1参照】

図1 電気料金、1年前と比べて「増加」した企業は96.3%(帝国データバンク調べ)
図1 電気料金、1年前と比べて「増加」した企業は96.3%(帝国データバンク調べ)

   前回調査(2022年12月実施)と比べて、電気料金が「増加」した企業(96.3%)は、7.0ポイント増加(前回調査は86.6%)。20%以上増えた企業の割合が高まっており、料金変化率の平均は前回調査の28.7%増から39.4%増と、0.7ポイント上昇した。【図2参照】

図2 電気料金が「増加」した企業は前回調査から7.0ポイント増加(帝国データバンク調べ)
図2 電気料金が「増加」した企業は前回調査から7.0ポイント増加(帝国データバンク調べ)

「年間400~500万円のコストアップした」(金属プレス製品製造)

   電気料金について、企業からは、

「新電力会社との契約更新時に価格が2.5倍になるため、別の新電力会社を見つけて契約したが、年間400~500万円のコストアップした」(金属プレス製品製造)
「新電力会社が電力供給をやめ、大手電力会社に変更したが、電力料金は前期の2倍以上になった」(旅館)
「電気料金がここまで増額するとは想定していなかった。夜間工事等の場合は事務所の灯りを消灯するよう今後検討せざるを得ない状況になった」(舗装工事)
「電気使用量は88%まで下げているが、それでも電気料金は130%と伸長した」(スーパーストア)
「新電力会社と契約していたが、昨年9月に契約解除になり、セーフティネット(最終保障供給)の電力を使用しはじめて、大幅に電気料金が上がった」(建設機械・鉱山機械製造)
「電力自由化で域外の電力会社から割安な提案を受け切り替えたが、この1年で燃料費調整単価が上昇し、電気料金が3~4割増しになった。最終的に契約を打ち切られ、当月から選択の余地なく旧契約先に戻すが、直近の1.6倍以上、1年前の2倍以上の水準になった」(機械工具製造)

   と、大手・新電力会社を問わず大幅に電気料金が上昇しているといった声が漏れる。その半面、

「昨年に駐車場の電灯のLED化やエアコンを入れ替えた結果として、使用量が減少し、電気料金の総額はほぼ変わらなかった」(鉄鋼卸売)

   と、節電で使用量を削減したことが奏功。電気料金の総額を抑えられた企業もあった。

電気料金100円上昇でも、転嫁できるのは14.9円だけ

   また、「電気料金の増加分を、販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか」を聞いたところ、「まったく価格転嫁できていない」と答えた企業は57.2%と、6 割近くを占めた。

   一方、「多少なりとも価格転嫁できている」企業は42.8%だった。その内訳をみると、電気料金の増加分に対して「2割未満」と答えた企業は20.7%で最多。「2割以上5割未満」が10.1%、「5割以上8割未満」が7.1%で続いた。

   今回の価格転嫁の回答から算出した電気料金の増加分に対する販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」(=各選択肢のレンジの中間値を回答数で加重平均したもの)は、14.9%にとどまった。

   つまり、これは電気料金が100円増加した場合に、14.9円しか販売価格に反映できていないことを示している。

   前回調査(22年12月)と比べると、「多少なりとも価格転嫁できている」企業は42.8%で、13.2ポイント増え(前回調査29.6%)、「価格転嫁率」も前回の9.9%から14.9%へ、5.0ポイント上昇した。【図3参照】

図3 「まったく転嫁できていない」企業は57.2%にのぼる(帝国データバンク調べ)
図3 「まったく転嫁できていない」企業は57.2%にのぼる(帝国データバンク調べ)

   価格転嫁について、企業からは、

「現場でできる使用量の削減程度では、電気料金の上昇を抑制することが不可能な状態。価格転嫁が客数の減少に影響してしまった営業所もあり、打開策が見いだせない」(結婚式場)
「部品や原材料の値上げ分の転嫁が目先の課題で、電力代まで手が回らない」(電気機械器具卸売)
「原材料の転嫁が精一杯。それ以上の価格改定は客足が遠のきそうで転嫁できない」(美容)

   と、原材料価格の上昇分を価格転嫁することに取り組む中で、電気料金までは厳しいという声などと、苦しい状況を明かす。また、

「競合の少ないジャンルは電気料金の値上げを概ね転嫁できているが、取引先が多い大手企業や新規開拓先は申し入れにくい」(ねん糸製造)
「顧客も電気料金が上がっているため、お互いさまという雰囲気で、こちら側だけが値上げできない状況」(プラスチックフィルム加工)
「原材料費が上昇した分の転嫁を第一優先で行っているが、完全には反映できていない。その状況下で電気料金の話をするのは難しい」(フェルト・不織布製造)
「社会的に原材料や人件費などを含めて、値上げは仕方ないといった雰囲気が醸成されてきている。ただし、値上げの相談をしたら他社に見積もりを取られて、取引がなくなった得意先もあった。簡単に値上げは行えない」(印刷)

   といった競争原理が強く働く取引関係においては、転嫁が難しい実情が浮かび上がってきた。その一方で、

「電気料金上昇の実績データをもとに価格転嫁の交渉を客先と行って、一部の製品の価格転嫁が実施できた」(自動車駆動・操縦・制動装置製造)

   とあるように、価格転嫁は低水準ながらも進んでいるケースもある。

    帝国データバンクは、

「電気料金の値上げを販売価格やサービス料金に『まったく価格転嫁できていない』企業が6割近くを占めるなど、企業の負担増が続いている。そうしたなか、『多少なりとも価格転嫁できている』企業の割合は13.2ポイント、価格転嫁率は5.0ポイントそれぞれ上昇し、価格転嫁が徐々に進んではいるものの、電気料金の値上げペースに追いついていない状況といえよう」

   とみている。

   電気料金の値上げが続くなか、価格転嫁が十分に進まなければ事業継続が難しくなる企業が、まだまだ増えそうだ。

   なお、調査は2023年4 月10 日~13 日に、インターネットで実施した。有効回答数は1097社。「電気料金値上げに関する企業の実態」調査は昨年12月に続き、2回目。

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