コロナ禍から回復しつつある日本経済だが、大手企業・中小企業では正社員の人手不足の問題は見過ごせない。
東京商工リサーチが2023年4月17日に発表した全国の企業を対象とした「人手不足」に関するアンケート調査によると、全体の「66.5%」が「正社員不足」と回答し、従業員の多い大企業では「73.2%」もの会社が人手不足だという実態が明らかになった。
特に運輸、観光、宿泊業で人手が足りておらず、定着率の問題と採用活動の問題の二重苦に苦しんでいる企業もあるらしい。
大企業の73.1%、人手不足感ある...正社員も非正規社員も足りない業界も
この調査は2023年4月3日から11日にかけてインターネットで調査。有効回答数は4445社を集めた。
なお、記事内での「大企業」と「中小企業」は、資本金1億円以上を「大企業」、資本金1億円未満(個人企業などを含む)を「中小企業」と定義した。
はじめに、「貴社の正社員の状況は『非常に不足している』、『やや不足している』、『充足している』、『やや過剰である』、『非常に過剰である』のどれですか?」と問いかけた。
すると、全企業では「非常に不足している」が「11.4%」、「やや不足している」が「55.0%」となり、合計すると「正社員不足」と回答した企業は全体の66.5%を占めた。
規模別にみるとでは、大企業ほど顕著な結果になり「非常に不足している」(13.3%)と「やや不足している」(59.8%)を合わせた「73.1%」の企業が正社員不足の状態になっているというデータが明らかになった。
中小企業でも「非常に不足している」(11.2%)と「やや不足している」(54.3%)を合わせると「65.5%」の企業で正社員が不足しているようだ。
同社では
「中小企業は大企業に比べ、業種によっては業況、受注の回復に時間を要する一面もあり、人員の不足感を訴える企業は、大企業よりも少ない傾向にあった」
と分析している。
続いて、非正規社員の充足度合いについての質問では、全企業では「充足している」(57.5%)、「やや過剰である」(3.8%)、「非常に過剰である」(0.2%)となり、「61.5%」の企業でおおむね数が足りているようだ。
大企業と中小企業の「充足している」の割合の差を出してみると、中小企業が多く5.6ポイント高いことがわかった。
同社では企業の業種に着目し、
「一方、不足感のある業種では上位に飲食店、宿泊、サービス、道路旅客運送など、コロナ禍の行動制限解除以降に採用意向が高まった業種に偏り、業種による非正規社員の不足感は二極化している。今後、インバウンド需要が本格化すると、この傾向はさらに強まりそうだ」
と指摘した。
「運送」「宿泊」「娯楽」は慢性的に人手不足 物流は「2024年問題」抱える
一方で業種別で正社員の不足感と過剰感をみてみると、「印刷・印刷関連業」は構成比「26.0%」、広告業は構成比「17.2%」、情報通信機械器具製造業で「15.7%」の割合で正社員過剰を示している。
同社では理由について
「過剰感の強い業種では、印刷関連が正社員、非正規社員ともに上位に並ぶ。編集プロダクションなどの映像・紙媒体の制作や広告、繊維・衣服卸売も正社員では過剰感が強い。印刷をはじめとした紙媒体は、長期に渡り需要の減少が続いてきたうえ、コロナ禍以降、催事等の減少やポスティングの自粛も影響し、受注環境は悪化している」
としている。
一方で、「道路旅客運送業」(90.9%)、「道路貨物運送業」(88.1%)、「物品賃貸業」(83.7%)の割合で正社員不足を示している。
同社では
「運送業では正社員の人手不足が深刻で、観光バスやタクシーなど道路旅客や貨物・物流業者のトラックドライバー、有資格者の充足を求める声が相次ぐ。旅客業者は、中国人観光客の訪日が本格化する今春以降の需要増、物流関連は2024年問題を抱え、今後ますます正社員不足の解消が急がれる。また、飲食、宿泊、娯楽、サービスは、正社員、非正規社員ともに、半数以上の企業が不足を訴えている。昨春の行動制限解除後、客足の回復の一方で、徐々に採用難が悪化していると言える」
という。
今後の動向については、
「運送、飲食、宿泊など慢性的に人手不足である業種が限定されているのと同様、過剰感のある業種も固定化しつつある。人手不足の長期化は、企業の成長機会や消費創出の場を失う恐れもある。企業や業界単位ではなく、過剰感のある産業から需要や成長余地のある産業への雇用支援を図るなど、官民を挙げた実務的な対策も必要になっている」
と説明している。