石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなど非加盟の産油国でつくる「OPECプラス」が原油の追加減産に踏み切った。予想外の動きとなり、市場は不意を突かれたかたちで、原油相場は急騰した。
日欧米などはインフレへの警戒を強めるが、なにより、米国の中東へ、また産油国への影響力の後退を印象付けることになった。
サウジ、UAEなどが5月から116万バレルの追加減産
OPECプラスは2023年4月2日、5月から計日量116万バレルの追加減産を表明した。22年11月から続けている日量200万バレルの減産に上乗せして供給を抑えるもので、原油相場を下支えする狙いだ。
OPECプラスはコロナ禍による需要減退を受け、2020年5月から1年余り減産を実施した。だが、世界経済の回復に伴い2021年8月から22年8月まで毎月、段階的に増産してほぼコロナ前水準を回復。さらに追加で9月に10万バレル増産したが、10月には8月水準に戻し、さらに11月から200万バレルの追加減産に踏み切っていた。
ロイター通信によると、主なところでは、今回はサウジアラビアが50万バレル、イラクが21.1万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)は14.4万バレル、クウェートも12.8万バレル、それぞれ自主減産する。
ロシアは主要7か国(G7)などの制裁による輸出減に対応して、2月に表明した50万バレルの減産を23年末まで続けるという。
これらすべてを合わせた減産幅は22年11月からの200万バレル、ロシアの50万バレルに新たな116万バレルを加え366万バレル、世界需要の3.7%相当する。
従来方針の据え置き予想が一転、不意を突かれ...WTI先物、22年11月以来の一時1バレル=83ドル台と高値に
実は、OPECプラスは今回の決定翌日の4月3日に合同閣僚監視委員会(JMMC)開催が決まっていた。
ここでは2023年末まで日量200万バレル減産という従来方針を据え置くと予想されていた。その前日に行われた追加減産の発表に、市場は不意を突かれたかっこうになった。
発表を受けた4月3日の米ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油相場は急騰。米国産標準油種(WTI)の先物は、一時、1バレル=81.69ドルと1月下旬以来の高値を付け。
その後も、一時、22年11月以来の83ドル台を付ける場面もあったが、米国を中心とする景気の減速予測などとの綱引きで、おおむね80ドル台前半での取引が続いている。
WTIはロシアのウクライナ侵攻に伴い、22年6月に1バレル=120ドル超に高騰したが、欧米のインフレ対策などで80ドル程度まで下落。
秋以降は、前記の通りOPECプラスが減産に動いたが、各国の景気減速や、ロシア産原油への取引価格の上限導入といった対ロシア制裁の効果もあって、下落基調が続き、23年3月には一時、60ドル台を付けるなど低迷していた。
この価格レベルは、産油国には受け入れがたいものだ。
国際通貨基金(IMF)の推計では、2023年の産油国の財政収支が均衡する原油価格は、サウジが66.8ドル、UAEが65.8ドルだが、他の主要7か国平均は84.8ドルになるという。これを下回れば産油国経済を直撃するわけだ。
米バイデン政権「このタイミングでの減産は賢明ではない」 失望感を露わに
今回の追加減産は、実際の原油相場への影響もさることながら、国際政治に大きなインパクトを与えた。米バイデン政権は減産決定を受け、「このタイミングでの減産は賢明ではない」と伝えていたことを明らかにし、失望感を露わにした。
サウジは3月に、中国の仲介で「宿敵」ともいえ、事あるごとに対立してきたイランとの国交を正常化した。減産は、これに続き、中東における米国の存在感の低下を改めて印象付けた。
当面の原油相場は、欧米などの景気減速懸念、特にここにきての一部銀行の経営破綻に伴う金融不安への懸念が広がっていることもあって、上値の重い展開を予想する向きが多い。
それでも、米国の産油国への影響力低下が鮮明になるなか、今後の原油相場は不透明感を増している。
(ジャーナリスト 白井俊郎)