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「10年ぶり交代」日銀総裁 黒田東彦氏、植田和男氏...2人の会見から見えた「異次元緩和」とらえ方の「違い」

   歴代最長の10年にわたって日銀トップを務めた黒田東彦氏が2023年4月8日、任期満了に伴い退任し、9日付で経済学者として初の日銀トップとなる植田和男氏が新総裁に就任した。

   週末を挟んで退任、就任の記者会見に臨んだ2人の「総裁」は互いにエールを送りあう一方で、言葉の端々からは両者の「違い」も浮き彫りになった。

  • 就任会見をした植田和男・日銀新総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)
    就任会見をした植田和男・日銀新総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)
  • 就任会見をした植田和男・日銀新総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)

黒田氏の退任会見、異次元緩和の「副作用」は多くを語らず 「2%目標」公約達成できず「残念だ」

「経済、金融、物価などの状況に応じて副作用に対処しつつ、効果的、持続的な金融緩和を継続してきた」
「経済、物価も着実に改善してデフレではない状況を実現できた」

   23年4月7日に退任会見に臨んだ黒田氏は、自らが主導した異次元緩和の成果を繰り返し強調した。

   ところが対象的に、「副作用」に質問が及ぶと、口調は一気に冷淡になった。

   2013年4月の異次元緩和導入時、「2%の物価安定目標を、2年程度を念頭に実現する」と明言した自身の「公約」が果たせなかったことは「残念だ」と一言。

   「潜在成長率が伸び悩んでいる」との質問には、「(異次元緩和を続けなければ)もっと下がっていた」と反論してみせた。

   「黒田バズーカ」とも呼ばれるサプライズの政策変更で、市場を何度も混乱させてきた理由を聞かれると「サプライズ狙いで政策をしたことはまったくない」と言い切った。

   異次元緩和の「メリット」は強調するのに、「副作用」からは目を背ける。最近の黒田氏の「悪癖」が退任会見でも出たかっこうだ。

   黒田氏は後任の植田氏にこんな言葉を残している。

「2%目標達成は課題として残っているが、賃金・物価は上がらないというノルム(社会通念)は徐々に変化している。目標実現を期待しています」

   「お膳立てはしてやったぞ」ということだろう。

植田氏の就任会見、金融政策の「副作用」にも言及 「2%目標」は達成時期の明言避ける

   後任の植田氏は週明け4月10日、首相官邸で岸田文雄首相から辞令を受け取って会談した後、日銀本店で就任会見を行った。

   黒田氏の退任会見を受けるかたちで「デフレでない状況を作り出してバトンタッチしてくれたことはありがたい」と感謝したうえで、異次元緩和を基本的に継続すると明言した。

   ただ、黒田氏と明確に違ったのが、植田氏が会見で政策の「副作用」に繰り返し言及したことだ。

   マイナス金利や長短金利操作といった異次元緩和の骨格となる金融政策についても「副作用もある」「メリットと副作用を比較していく」と指摘。副作用がメリットを上回る場合、政策修正に踏み切ることにも含みを残した。

   2%目標についても賃金上昇など達成に向けた好条件が揃いつつあると認める一方で、「簡単な目標ではない」と述べた。

   黒田氏にように期限をくぎって達成時期を明言することは、明確に否定したかたちだった。植田氏の任期中に目標達成が視野に入れば、異次元緩和を縮小する「出口」に向けた議論が本格化する。

   だが、出口は議論をしただけで市場にハレーションを起こしかねない難問だけに、そうした警戒感から植田氏の口を固くしているようだ。

大量に買い上げた国債の取り扱いなど...新総裁に丸投げされた「宿題」への難しいかじ取り

   2人の違いについて、日銀内からはこんな声があがる。

「黒田前総裁は大規模緩和の副作用をほとんど考慮せず、強気の立場を貫いた。対して植田新総裁は副作用を含め政策全体を評価するバランス型だ。この違いが今後、金融政策にも影響してくるだろう」

   黒田氏は異次元緩和の副作用について是正策をほとんど講じることなく、日銀を去った。対応は植田氏に丸投げされたかたちだ。

   異次元緩和で買い上げた大量の国債の取り扱いなど「宿題」として残された課題は、どれも一筋縄ではいかない難問ばかりだ。

「私が、黒田総裁が就任した時期に仮に総裁であったら決断できなかったような思い切ったことを実行された。それは10年前の総裁として一つの判断だったと思う」

   10日の記者会見で、黒田氏の評価を聞かれた植田新総裁はこう答えた。

   それは異次元緩和の終わりを示さずに去った黒田氏に対する強烈な皮肉にも聞こえた。(ジャーナリスト 白井俊郎)