流通業界は離職率が高い業界として知られています。「ノルマは厳しく、休みも取りにくい」「人材募集をかけても人が集まらない」「将来のキャリアパスが見えにくい」など、多忙な日々を過ごしている店長は少なくありません。
『店長の一流、二流、三流』(岡本文宏著)明日香出版社
仕事を任せることで、自ら考え、動くようになる
店長にはプレイングマネージャーとしての役割が求められます。店長自身が現場に立ち、スタッフの見本となるような振る舞いが必要です。店長が現場に立つと、短期的には業績アップにつながる場合もたしかにあります。しかし、店長が一人で作れる売上には限界があり、抱え込みは業務に支障をきたすリスクがあります。岡本さんは次のように言います。
「必要となるのが自分で考え、動き、店づくりに積極的に貢献してくれるスタッフの存在です。また、スタッフを活用し店全体をチームとして稼働させることが大切です。その中で、大切なことの一つが『仕事を任せる』ことです。任せることでスタッフのやる気がアップし、責任感が増し、育成のスピードが速まります」(岡本さん)
「仕事を任せることで課せられた業務をこなすだけという状況から、自分で考え、自ら動くスタッフに変えていくこともできます。『発注』『陳列』『POP作成』『在庫管理』など売場づくりに関すること全てを、現場のスタッフに任せている会社も存在します」(同)
つまり、現場に任せることで、スタッフの仕事への興味とコミットメントが増していくわけです。コミットメントが高まれば、業務に主体的に取り組むようになっていきます。
「お店の場合、自分の仕事が売上に反映されるので、ダイレクトに結果がわかります。結果がよければ、もちろん、モチベーションは上がり、いい結果が出せるよう、仕事のやり方に磨きを掛けるようになります。逆に思わしくなかったとしたら、次はいい結果を出せるよう、新しい方法にトライし、試行錯誤することになります」(岡本さん)
「仕事を任せる際のポイントは一度任せると決めたことは最後まで『任せきる』ことです。経営者、マネージャーはスタッフが、自分と同じ考えのもと、同じやり方で行動しなければ違和感を覚えます。ところが、注文をつけるマネージャーが多いのです。任せた仕事なのに、途中で横槍を入れたり、注文を付けたりすると、どうなるでしょうか?」(同)
横槍を入れるということは、最終の決断を取り上げてしまうことだと、岡本さんは言います。スタッフは自分で考えて行動することを放棄し、指示待ち人間になってしまうのです。これでは、スタッフの成長も期待できないでしょう。
店長はスタッフの権限を尊重せよ
スタッフが、課せられた仕事に責任を持つようにするにはどうすべきでしょうか? 仕事を任せることで、スタッフは確実に成長していくと岡本さんは言います。さらに、任せる側が「任せきる」ことを決断することが非常に大切なことであると指摘します。
「私が、かつて経営していたセブン・イレブンのFC店を開業した当初、スタッフに発注業務を任せていたのですが、それを、任せきることができず失敗をしたことがあります。せっかく時間をかけてスタッフが決めた発注数を、担当スタッフの許可を得ずに、勝手に書き換えるということを続けていました」(岡本さん)
「それを知ったスタッフは、その後、いい加減な発注しかしないようになってしまいました。その時のスタッフの言い分は『一生懸命考えて発注をしても、オーナーが書き換えてしまうのであれば、自分が発注をする意味がない』というものでした」(同)
その後、岡本さんはスタッフが決めた発注数には手を加えることはせず、「任せきる」ことを徹底しようとマネジメントの手法を修正します。
本書は、チームマネジメント、人材育成、店長としてのセールスや接客など幅広く網羅されています。問題意識を持っている多くの店長にとって、有益なアドバイスになることでしょう。(尾藤克之)