とにかく面白い一冊! リーダーにすすめたい「東洋思想」

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部下とともに成長する上司

   「どのように人を育てるか」。人を指導するときの注意点は、「論語」の中にも見ることができるという。要約すると、以下のような言葉がある。

「先生は言われた。アドバイスにより人を正しい方向に導くべきだ。しかし、効果がない場合は直ちにそれをやめるべきだ。自分自身の恥辱を招くことがないように」

   熱心に教えているのに相手が育たないのは、主体性という視点が欠落しているからだ。人材育成の主役は、部下本人。上司はあくまでアシスト役にすぎない。

   強い信念や方針を持っている上司は、得てして自分を主役にして己のスタイルを押し付けがちだ。しかし、部下を主役にして考えないと、部下はいつまでも受け身の姿勢で仕事をすることになり、成長は望めない。

   岡倉天心が東洋文化を西洋に紹介するために書いた「茶の本」に出てくる琴のエピソードを引き、「自他一体の境地」とは人材育成の場面では、人を育てる過程において上司も成長していくことだ、と説明する。

   海外で仕事をする日本人リーダーの多くは、この「部下から学ぶ」という経験を否応なく経験させられるという。文化の違いに直面すると、そうせざるを得ないからだ。

   たとえば、東南アジアの外国人スタッフは、時間をあまり守らない傾向にあるという。「どう伝えればわかってくれるのか」「こちらの対応にも柔軟性を持たせなければならないのでは」と、リーダーの価値観を揺さぶることになり、葛藤しながら自分のマネジメントのスタイルをアップデートしていくことになる。

   結果として、海外で経験を積んだリーダーは、大きく成長して日本に帰ってくることになるのだ。

   「問題社員をどう評価するか」という章では、孟子と並んで儒家の中心人物だった荀子が説いた「性悪説」の正しい理解を求めている。荀子は「人間は絶対的に悪だ」と言いたいのでは決してなく、むしろそうならないために努力することが大事だと説いているというのだ。

   荀子の人間観は現代的であり、実践的だと、中村さんは考えている。ビジネスにあてはめると、バリュー(価値観)とシステム(制度)のバランスと言い換えることができるという。

   この章のストーリーでは、暴走するワンマン係長にどう対処するかが問われている。課長はドライな目と温かい目の2つの視点から、係長に自分の本音を伝え、課の運営に新たな形で関わってもらえないか、と話した。

   この後、課長が進めていたプロジェクトの撤退、思いがけない転勤、その後の社長交代に伴う新会社への抜てき、とストーリーが進みながら、東洋的弁証法、「孫子」の必勝法などに話が及ぶ。

   人生の逆境でどう生きるか。

   「今に集中する」という禅の教え、自分の「拠りどころ」を見つけるという孟子の言葉に励まされる人も多いだろう。

   中村さんは、リーダーの成長のステージを「自分を探す」→「自分を見つける」→「自分を手放す」→「ありのままを受け入れる」→「他者のために生きる」と5段階で、表している。そして、最後に「悩むからこそリーダーである。悩み続けるからこそ幸せになれる」という言葉で結んでいる。

   この春、リーダーに昇進したすべての人に贈りたい言葉だ。(渡辺淳悦)

「リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる」
中村勝裕著
WAVE出版
1650円(税込)

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