「オワハラ」をオワラスことなんて、できるの?
政府は2023年4月10日、就職活動を行なっている大学生に対する企業の「オワハラ」(就活終われハラスメント)が深刻になっているとして、2025年卒の大学生(現在3年生)から禁止することを決めた。
ネット上では「オワハラ」体験者から歓迎する声が上がる一方、企業の採用担当者からは「こちらはドタキャンハラスメントに困っている」といった反論の意見も上がっている。
「オワハラ禁止」徹底のため、企業に相談窓口設置も
政府が経済界などに要請した公式文書「インターンシップを活用した就職・採用活動日程ルールの見直しについて」や、報道をまとめると、政府は4月10日、文部科学省などの関係省庁連絡会議を開き、現在の大学2~3年生にあたる2025~26年春卒業組の就職活動での新たなルールを決定した。
そのなかで特に、企業が内々定を出した学生に対し、正式な内定前に他社との接触を断つように迫る「オワハラ」が「職業選択の自由」を奪っているとして、経済界に禁止を求めることを決めた。
会議後、共生社会の推進を担当する小倉将信(おぐら・まさのぶ)少子化相は、日本経済団体連合会(経団連)の十倉雅和会長と日本商工会議所の小林健会頭に要請書を手渡し、防止徹底を求めた。政府は約1250の経済・業界団体に要請を行う方針だ。
「オワハラ」とは、企業の採用担当者らが就職活動の終了を学生に迫る行為で、具体的には以下のようなケースを指す。
(1)労働契約を結ぶ「内定」前に、書面で入社意思を確認する「内定承諾書」を書かせる。
(2)長時間の内定者研修を行なったり、頻繁に懇親会を開いたりして、学生を事実上拘束する。
内定や内々定の辞退は法的には問題ないが、学生に心理的な圧力をかけるが企業側の狙いだ。
そして、政府は企業側に「オワハラ」を行なわない実効性の担保のため、学生の苦情・相談窓口を設けさせることも決めた。また、大学側やハローワークにも学生の相談に対応できる態勢を求める徹底ぶりだ。
政府が「オワハラ」防止に力を入れる背景には、2015年頃から社会問題化し始めたことがある。同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。内閣府が2021年11月に公表した「学生の就職活動に関する調査」によると、調査対象の学生のうち11.6%が「オワハラを受けた」と回答している。
社長の最終面接で「他の就活やめれば内定出す」
今回の政府の「オワハラ」防止の徹底策について、ヤフーニュースコメント欄ではさまざまな意見が相次いでいる。
「オワハラ」体験者からはこんな実態が寄せられた。
「第一希望ではなかった中小企業の最終面接は社長・副社長面接で、一言目に『他の就活をやめてうちに決めるなら内定を出す、続けるなら出さない』と言われました。第一希望は大手で選考はまだ始まっていなかったのですが、人事担当の方に話していたので、社長はもちろん知っていて、後はひたすらその会社や職種に対する悪口を聞かされました。
人事担当の方は、親身に話を聞いて相談にも乗ってくれ、気持ちも傾きかけたのですが、最後の最後に社長の手によって最悪な印象の会社になり、やめようと思いました。しかも、終わった後、人事の方が『本当は、社長はいい人なんだけど』とかフォローしていて、社長が一番迷惑かけているジャン、と...」
「2020年卒ですが、当時からありました。最終面接は東京本社で行いますと言われ、そうなんかーと思っていると、最終面接の時には受けている企業全部を辞退することが条件にされていました。働き方も正直不安視していた中でこの指示だったので、むしろそちらを辞退させてくださいというと、1時間くらい説得の時間。
時間もったいないし、聞いている感じが価値観合わないので、『たぶんミスマッチになりそうだと思いますので、辞退します』と強く言って、やっと辞退できました。気になっていた企業で、良くしてくれる社員さんばっかりだったので、悲しかったです」
「私も役員との最終面接で、『合格は、合格後直ぐに内定承諾書にサインし、入社を決めて頂くことが条件です』と言われ、やる気をなくした。最終面接はやる気なさそうにテキトーにやり、落ちた。業界では結構な大手企業で、始まる前に人事担当の方が来て、『今年、書類選考は約1000通来ましたが、最終面接まで残っているのは3分の1もいないです。ここからさらに絞り込みますが、ここまで残っているだけでも優秀な証拠なのですよ。大手企業一歩手前くらいの会社なら、皆さんなら内定が取れます。自信を持ってください』と言われた時は嬉しかったが、直ぐに入社が条件は納得できなかった」
などと、人事担当者がいい人ばかりだっただけに、会社の姿勢に失望の念を抱いた人が多かった。
転職者にもある? エージェントからの「オワハラ」
一方、「オワハラ」と気づかなかった人も――。
「新卒でしたが、内定者研修とかありましたね。特に気にならなかったので、そのまま勤めましたが、これもオワハラだったのですかね? そう考えると、今に限らず昔からあった話が、売り手市場になったことで、実は良くないと表面化したものなのかもしれません。
ここで引き止めたとしても、入社直後に辞めてしまう新人は一定数おり、入社まで引き止めることに意味があるのかは疑問ですね」
「オワハラ」は、新卒採用だけではなく、転職者採用でもある、と指摘する意見があった。
「転職でも同じです。転職エージェントに紹介された会社に内定が出て、その後も複数面接を受けていたら、エージェントから辞めるよう依頼されました。それでも、別エージェント経由でもらった面接は受けていましたが、最終的には内定もらった会社に入社したら、そこで転職活動は終了となります。
内定もらってから入社まで2か月くらい。新卒の場合は、内定もらってから半年から1年くらい猶予があるので、それだけ他に流れるリスクがあります。つまり、新卒の選考を一律合わせてきたこれまでのやり方がおかしいという話です」
企業の人事担当者「学校の入学試験ように補欠合格枠は作れない」
一方、企業側はどう見ているのか。採用担当者と見られる人々から反論が寄せられた。
「うちの会社でも『内々定承諾書』を提出いただきます。原則内々定通知から1か月以内に返送をお願いしますが、『他社選考中で迷っているなら、無理に提出しないでいいから、いつでも相談してね』と伝えています。それもあってか、内々定の後の辞退は経験上ほぼゼロです。
企業からすれば、年間の採用人数の目標はあるし、それに満たないと採用担当の評価にも繋がるし、さらに辞退者枠確保のために採用活動を継続しなければならないし、意外と大変なのです。学生さんが安易な気持ちで辞退されるのは、企業としてもダメージが大きいので、それがオワハラに繋がってしまうのでしょうね。学生さんの気持ちも分かりますが、企業側はいろいろと辛いですね」
「確かに学生に不利なことはすべきでないと思います。ただ、企業側からすると、体力があり、規模が大きい企業だと辞退者を見越して合格者を多めに出して、万が一辞退者が予想を下回り、ポストより入社者が上回っても配置場所に困らないのですが、そうではない企業だと採用コストの観点からも、拘束したいという気持ちになるのは事実です。
平気で『あなたの会社しか考えていません』と入社直前まで言っておきながら、『実は就職活動を続けていまして、辞退したい』というケースも少なくないですからね。日本の採用スタイルを維持するのであれば、学生だけでなく、企業側も配慮してほしい気はします」
「企業としては、採用決定してからもさまざまな準備をして迎えるわけで、意志確認は必要かと思うのですが、オワハラという言葉ですべてを悪くなるように仕向けるのもいかがなものでしょうか? 売手市場になると、学生側も内定辞退を当然の権利として使い、企業側をギリギリまで引っ張りドタキャンのような形で混乱させるケースがあるのも事実だと思います。内定してからの意思確認や、どうしても入社を促したいという企業側の意思表示は認められてよいかと思います」
「入社意志確認をした時点で入る気がない、もしくは迷っているなら、すぐに蹴って欲しい。それはどうしても入りたい会社ではないです。誰かが採用枠をキープしていると、その分、別の誰かが不採用になります。企業は学校の入学試験ように補欠合格という枠は作れません。
それで意味もなく不合格になっている求職者も非常に多いです。マッチングが阻害されることは、企業にとっても求職者にとっても良くありません。お互いに早く意思決定することが、良好なマッチングの状況をつくる条件だと思います」
内定辞退のため挨拶に来て、泣いて帰っていった学生も
学生側も企業側も悩みは尽きないようだ。最後に、こんな企業人の声を紹介したい。
「約20年前のこと。内定を辞退するために会社に挨拶に来た学生さんが泣いて帰っていった姿を思い出す。優秀な方だからぜひ来ていただきたかったが、『第一希望の会社から内定が出たのなら、頑張って!』と送り出したら、泣いてしまった。
オワハラのようなことはない会社だったが、断りに来るのも大変だっただろうし、申し訳ない気持ちもあっての男泣きだったのか。転職が当たり前の今の時代では、新卒で入社したとしても数年後には別の会社にいる人も多いだろうから、もっとクールな感じなのだろうな」
(福田和郎)