航海初日から政治の影響を強く受ける、厳しい船出
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏もリポート「植田日本銀行新総裁の就任記者会見:多くの副作用を指摘も近い将来の緩和の枠組み見直しには否定的」(4月10日付)の中で、「早期の政策修正の見方は後退した」と予想するが、背景には自民党内の保守勢力の抵抗があったのではないか、と指摘する。
「(岸田首相との)会談後に植田総裁は、『政府と日本銀行の共同声明について、直ちに見直す必要はないとの認識で一致した』と記者団に語っている」
「共同声明の見直しについて、両氏が慎重な姿勢を見せた背景には、金融緩和の修正や2%の物価目標の見直しに強く反対する自民党保守派への配慮もあるのではないか。
そもそも岸田政権は、昨年から共同声明の見直しに前向きの姿勢を示唆していた。岸田首相も、共同声明が日本銀行の金融政策の自由度を奪い、政策を硬直化させてしまったことを問題視してきたのではないか。植田総裁の金融政策は、発足当初から政治の影響を強く受ける、厳しい船出のように見受けられる」
ただし、植田総裁のもとで日本銀行は、最終的に金融緩和の枠組み修正に乗り出すことは確かだ。その時期について木内氏はこう推測する。
「いくつかの要因が、2%の物価目標の見直しや金融緩和の枠組みの本格的な見直しの時期を先送りさせているように思われる」
「第1は、金融緩和の修正や2%の物価目標見直しに強く反対する意見が自民党内にあるという政治的要因だ。第2は、足元で賃金上昇率が上振れていることから、2%の物価目標の見直しとそれに続く金融緩和の枠組みの見直しを行う前に、賃金、物価の様子をしばらく見守るとの姿勢が日本銀行内に生じていることだ。第3に、3月の欧米での銀行不安や世界経済の下振れリスクが、早期の政策の見直しを慎重にさせていることだ」
「YCCの変動幅拡大や撤廃といった柔軟化策と、2%の物価目標の柔軟化は、今年中に実施される可能性を見ておきたいが、マイナス金利政策の終了など、本格的な金融緩和の枠組みの見直しは、来年後半以降になると考えられる」
そして、こう結んでいる。
「さらに、世界経済が本格的な景気後退に陥り、銀行不安が再燃し、また円高リスクが顕著に高まる場合には、本格的な金融緩和の枠組みの見直しは2025年以降にまでずれ込む可能性も出てくるだろう」
こうして、「植田日銀丸」は荒波が押し寄せる危険な航海に船出した。日本経済のためにもその無事と成功を祈りたい。(福田和郎)