「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE26」では、時間厳守、体調管理、早退・欠勤対応など、社会人の基本ルールがなかなか身に着かない...そんな新入社員の教育に悩むケースを取り上げます。
「そんなルールも守れないなら、社会人失格だろ?!」
【A課長】新年度早々、浮かない顔して...何かあったのか?
【B課長(同期の同僚)】ああ、実は...今年のうちの新人に手を焼いてるんだ。
【A課長】そうなのか? 優秀そうに見えるけどね。
【B課長】それはそうなんだが、時間にルーズでね。朝の遅刻も度々だし、決まった会議時間には遅れるし。体調不良で休む際の連絡は遅いしで...。
【A課長】たしかに、それは困るな。ちゃんと話はしたのか?
【B課長】それがね、何度か続いた上に、本人が平然としているもんだから、さすがに我慢しかねて。つい「社会人にもなって、そんな基本的なことも守れないのか!」と叱ったら、落ち込んでさ。ちゃんとこっちの顔を見て話せない様子で...。まったく困ったもんだよ!
【A課長】しかし、いきなり叱ってもな...。なぜ時間厳守が大事なのか、もう少し丁寧に説明してあげないと。
【B課長】何!? こっちが問題だっていうのか! どれも最低限のルールだろ。説明も何もあったもんじゃない! いくら優秀でも、そんなルールも守れないなら社会人失格だろ?!
【A課長】まあ、まあ...。でも君が厳しくしすぎると、今どきの新人なんだから「もう辞めます...」となるかもしれないぞ。
【B課長】えっ!! おい...脅かすなよ。それはまずいよ~。ますます困ったな~!!
【A課長】まあ、落ち着けよ...(こりゃ前途多難だな)
社会人の基本ルールをどう教えるか
新入社員にまず身に着けてほしいのが、社会人としての基本マナー(本連載の「CASE25」参照)や基本ルール。上司や先輩が、OJTで苦心するテーマの一つといえるでしょう。
CASEのA課長のように、「基本ルールは守るのが当然。説明の余地などない」といってしまえばそれまでのこと。しかし、厳しく申し渡し順守させるだけでは、十分な育成方法とはいえません。では、どのように教えるか。今回はこの点を考えてみましょう。
社会人の基本ルールとは、時間厳守、体調管理、早退・欠勤時の連絡など、最も基本的な職場の約束ごと。ただ、新入社員にとっては、社会人としてのマナーとともに学生時代には厳しく問われなかったものなので、しっかり身に着けてもらう必要があります。
基本ルールの習得は、「決めごとだから守るもの」、「注意を受けないために守るもの」といった受け身の理解では十分とは言えません。とはいえ、新入社員が自律的に働けるようになるまでは、責任意識をしっかり持つのは難しいもの。
そこで、上司や先輩は、マナーと同様に基本ルールの意味やその目的を説きながら、働く心構えを腹落ちさせることが大切になるのです。
「遅刻は相手の時間を奪うこと」と教える
代表的な基本ルールの一つが時間厳守です。このルールを破る遅刻は「相手の貴重な時間を奪うこと」であり、社会人として最もやってはならないルール違反の一つです。
相手は約束のために自分の時間を空けて待っていますし、打ち合わせや相談のための準備にも時間を費やしています。たとえ5分でもその時間を無駄にさせることは、たいへん失礼なことです。
さらにビジネスとして厳しく見れば、「時は金なり」です。遅刻は単に失礼なだけでなく、相手の財まで奪うもの。働き方改革で時間当たりの生産性がシビアに求められる昨今では、なおさらです。このように、基本ルールの順守は相手にマイナスの影響を与えないための義務ととらえるよう教えましょう。
常に時間に余裕を持った行動を促す
したがって、新入社員には社内の会議や打ち合わせはもちろん、特にお客様や取引先など外部の方との約束の時間には十分気を付けるべしと促しましょう。最低でも「10分前到着(準備完了)」を原則とするなど、時間厳守への十分な対応を身に着けさせることが大事です。
朝の通勤時間帯には、公共交通機関の遅れによる遅刻が発生しがちです。しかし、その時間帯に電車やバスが混雑で遅れ気味なのは普段から想定できること。朝の通勤やお客様との待ち合わせなどでは、予め余裕を持って移動することも社会人として働き方であることを学ばせましょう。
ここまで、新入社員の基本ルールの一つである「時間厳守」について見てきました。基本ルールには、さらにどのような内容やアドバイスのポイントがあるか。<なぜ遅刻してはいけないのか? 社会人に当たり前の基本ルールを新入社員にどう教える?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE26(後編)】(前川孝雄)>で引き続き解説していきます。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。