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「チャットGPTを止めろ!」「制御不能だ!」イーロン・マスクも警告する「AI競争」 海外メディアが予測する「AIに奪われる仕事TOP10」とは?(井津川倫子)

   米社「オープンAI」が手掛ける対話型AI(人工知能)チャットGPTがリリースされて、世界中を震撼させています。一方、「インターネット戦争の再来」とメディアが指摘するほど開発競争が加速するなか、欧州を中心にチャットGPT禁止論も高まっているようです。

   さらに、米起業家イーロン・マスク氏を含むIT業界の著名人が、「社会や人類への深刻なリスク」を理由にAI開発の中断を要請するなど、チャットGPTを取り巻く環境は戦々恐々としてきました。

   果たして、チャットGPTは「パンドラの箱」を開けてしまったのでしょうか? 私たちに与える影響を、当の「本人」にもインタビューしてみました。

  • AIに奪われる仕事とは(写真はイメージ)
    AIに奪われる仕事とは(写真はイメージ)
  • AIに奪われる仕事とは(写真はイメージ)

「3億人の職に影響」AIに奪われる仕事の第1位は皮肉にも...

   チャットGPTは、チャット形式で質問をすると、瞬時に「回答」が表示されるサービスで、パソコンやスマートフォンから手軽に利用できます。

   まるで、人間が話したり書いたりするような文章で回答する「対話型AI」で、マイクロソフト社が投資している米新興企業「オープンAI」が開発しました。

   私も実際に試してみましたが、アカウント設定もログインプロセスも「超簡単」。チャットに打ち込んだ質問に対して、瞬く間に文章が表示されるのですが、あまりの見事さに思わず息を飲んでしまいました。

   IT素人でも、こんなに高度なAI技術を手軽に利用できる時代になったのか...。そう、空恐ろしさを感じていたところ、追い打ちをかけるような「チャットGPTが仕事を奪う」といった報道の数々。英BBC放送は「3億人の仕事が奪われる可能性がある」とする米投資銀行ゴールドマン・サックスの報告書を紹介しています。

Artificial intelligence could replace the equivalent of 300 million full-time jobs (AIは3億人相当のフルタイムジョブにとって代わる可能性がある:英BBC放送)
Artificial intelligence:AI
replace:置き換わる

   これまでも、AIが雇用に与える影響については報告されていましたが、「3億人相当」とは相当なインパクト。BBCによると、米国と欧州で提供されている仕事の4分の1に当たるそうです。

   さらに報告書では、さまざまなセクターの職業に影響が及ぶと指摘。道を瞬時に覚えるAIの出現で、「ロンドン中の道を知っていることが『ウリ』だったタクシー運転手」の価値が下がり、「賃金が下がるか、雇用が減少する」と、ロンドン名物のタクシー運転手を例にわかりやすく解説していました。

   米メディア・ビジネスインサイダーは、「AIに取って代わられる仕事TOP10」というセンセーショナルなタイトルで、チャットGPTの影響を受けやすい職業を具体的にあげています。

Here are the 10 roles that AI is most likely to replace
(もっともAIに代替されやすい上位10の職業:ビジネスインサイダー)

   リストの上位には、ジャーナリストなどのメディア関連、弁護士や会計士、マーケットリサーチャーなど、いわゆる専門職が並んでいます。共通するのは、膨大な資料を読み込んだり、多様なデータを分析したりする能力が求められる職業、という点でしょうか。

   意外なことに、「学校の先生」も「代替される可能性が高い」と指摘されています。

   生徒がチャットGPTを使ってレポートを書いたり、試験を避ける目的で使用を禁止する学校が増えていますが、ビジネスインサイダーの分析では、逆に「先生が要らなくなる」とのこと。

   「Chat GPT can easily teach classes」(チャットGPTは、授業をラクラクと教えることができる)という専門家のコメントに、肝を冷やしている先生も多いと思います。

   皮肉なことに、「AIに代替されるリスト」で堂々の1位に輝いた(!)のは、コンピュータープログラマーや、データアナリストなどの技術者でした。専門家によると、ソフトウエア開発やコーディングなどの「技術」こそ「AIの得意分野」で、もっともAIに取って代わられる可能性がある、との分析です。

   実際、チャットGPTは、人間よりも早くプログラミングできるとか。自分たちが作ったAIに自らの仕事を奪われる...。まるでSF小説のような世界が現実になってきていることに、改めて背筋が寒くなりました。

イーロン・マスク「チャットGPTをストップしてくれ!」と警告

   チャットGPTが注目を集めるなか、ライバル企業のAI開発が加速しています。

   グーグルは、チャットGPTやマイクロソフトの「Bing」に対抗する「バード(Bard)」を米国と英国で限定公開に踏み切りましたが、他の国や英語以外の言語向けにも順次展開するとしています。

   フェイスブックを運営する米メタも、文章や画像などを自動生成するAIを2023年内に商用化する、と発表。先頭を走るマイクロソフト、グーグル、メタの3社に続け、とばかりに、IBMやアマゾン、複数の中国企業が同様の技術に取り組んでいると報じられています。

   こうした状況を、海外メディアは、「アップルのiPhoneがグーグルに与えた脅威の再燃」「グーグルがマイクロソフトの総攻撃をかわして以来の戦い」と、巨大IT企業間の競争が激しくなっていることを伝えています。

   そんななか、イーロン・マスク氏らIT業界の有力者たちが、「AI開発競争を停止しろ」という書簡を発表して話題になりました。

Elon Musk and other tech leaders call for pause in 'out of control' AI race
(イーロン・マスク氏らIT業界有力者、「制御不能」なAI開発競争の停止を訴える:米CNN)
out of control:制御不能

Elon Musk:'STOP Chat GPT, It will rule us!'
(イーロン・マスク氏「チャットGPTを止めろ。我々が支配されるぞ」:米ITメディア」

   マスク氏らが懸念しているのは、AI技術開発が人間のコントロールを超えてしまう危険性です。書簡では「out-of-control race」(制御不能な競争)を、「少なくとも半年間」は停止するように警告。AI技術には、今の世界の姿を変える力があるというリスクを知り尽くしている専門家集団の警告は、重く響きます。

   さらに、「開発した人たちの理解や予想を超え、コントロールできないほど強力」なデジタルマインドを作ってしまった、という指摘は、AIがIT技術系の仕事を奪う、というビジネスインサイダーの分析と重なります。

   果たして、チャットGPTは「パンドラの箱」を開けてしまったのでしょうか。当のチャットGPTに聞いてみると、次のような答えが返ってきました。

――チャットGPTはパンドラの箱を開けてしまったのですか?(問)

.....いいえ、私は人工知能のモデルであり、パンドラの箱を開けることはできません。
パンドラの箱は、古代ギリシャ神話に登場する物語の中で、人類の不幸をもたらすものとして語られています。

――チャットGPTは制御不能なのですか?(問)

......私は、私を使用する人々によって制御されます。ただし、私が生成するテキストの内容は、私をトレーニングする際に与えられたデータに基づいて自動的に生成されるため、時には意図しない形で予測不可能な応答を生成することがあります。したがって、私を使用する際には、常に注意深く評価し、適切な文脈で使用するようにして下さい。

   ちなみに、上記の回答は「たった数秒」で表示されました。チャットGPTがそれなりの回答を瞬時で表示することは間違いありません。

   でも、問題は、回答の「中身」でしょうか。チャットGPT自身が指摘しているように、「注意深く」評価することが求められていると思います。

   それでは、「今週のニュースな英語」「out of control」(制御不能)を使った表現を取り上げます。

The machine went out of control
(機械が制御不能になった)

My children are out of control
(うちの子どもたちは手に負えない)

The argument is out of control
(言い争いは手がつけられない)

   ちなみに、当コラムを執筆する私、「井津川倫子」についてチャットGPTに質問をしてみたところ、「ミステリー作家」で「数々の賞を受賞している」との回答がありました。もちろん私ではありませんし、同姓同名の作家もいないはず...。

   チャットGPTをうのみにしてはいけない、とあえて警告された...そんな気がしました。(井津川倫子)