日本が半導体製造装置の輸出の規制に乗り出した。
かねて米国から求められていたもので、政府の公式見解がどうあれ、中国を意識した政策であるのは明らかだ。米中対立にウクライナ情勢が加わり、世界の分断がまた一歩、進むのか。
中国商務省、日本の対応を厳しく批判...対抗措置ちらつかせる
中国商務省は2023年4月4日夜、ホームページ上に突如、記者との質疑応答形式の文書を掲載した。内容は日本政府が3月31日に発表した半導体製造装置に関する輸出規制を厳しく批判する内容だ。
文書は、輸出規制は「中国に対する攻撃的行為であり、中国企業の権利と利益を害するだけでなく、日本企業にも損失を与える」ものだと批判。そのうえで「日本側が理性の声に耳を傾け、ルール、自国の利益、中日間の利益を守り、間違ったやり方を適時に正す」よう是正を迫った。
さらに、「日本側が半導体産業における中日協力を妨げ主張」を継続する場合、「中国は断固とした措置をとり、正当な権利と利益を守る」と対抗措置までちらつかせた。
中国からこれほど反発する輸出規制とは、どういうものなのか。
製造に必要な装置など23品目、経産相の許可制に 量産化には必須の装置も
経産省の発表によると、先端半導体分野の製造に必要な露光装置や検査装置など23品目について、輸出時に経産相の許可を必要とする。軍事転用を防ぐ狙いがあり、7月にも実施に移す計画だ。
西村康稔経産相は「特定の国を念頭にしたものではない」と強調するが、規制の狙いが中国包囲網の強化であることは明らかだ。
半導体製造装置は米アプライド・マテリアルズ、オランダASML、そして日本の東京エレクトロンの上位3社が激しくシェアを争っている。
とくに、洗浄などを含め微細な工程がいくつもある先端半導体分野は「この3社の製造装置がなければ、量産化はかなり難しくなる」(日本メーカー関係者)ほどだ。
この状況に目をつけたのが、米バイデン政権だ。
米国は2022年10月、先端半導体の製造装置や技術に関する対中輸出を事実上、禁じた。さらにオランダと日本に対し、同調を強く迫り続けた。
オランダは2023年3月8日に規制案を公表。日本も今回、輸出規制を表明したことで、半導体製造装置で大きな存在感を示す3か国の足並みがそろったかたちだ。
先端半導体はスーパーコンピューターや人工知能(AI)など次世代技術を支える最重要部品だ。最新の兵器の開発にも先端半導体は欠かせず、経済安全保障の観点からも、先端半導体術開発・確保をめぐる国際的な競争は激化している。
中国は2015年に発表したハイテク産業育成策「中国製造2025」で、半導体を重点分野の筆頭に掲げるなど、半導体産業の育成に力を入れてきたのも当然だ。
中ロの軍事技術の強化、けん制したいG7の思惑
それだけに、日米などが連携して進める製造装置の輸出規制に対する衝撃が大きい。
中国の今後の産業戦略を根底から覆す恐れもあり、その恐怖が強い、冒頭に紹介した強い反発につながっているのだろう。
ただ、どんなに中国が日本に「脅し」をかけても、この流れは止まりそうにない。
中国商務省が質疑応答形式の文書を発表した裏で、日米欧の先進7か国(G7)は貿易相会合をオンライン形式で開き、軍事転用が可能な半導体などの先端技術について、輸出管理を強化する方向で一致した。
5月のG7首脳会議(広島サミット)でも輸出規制は産業分野の大きなテーマの一つとなる見通しだ。
「ロシアのウクライナ侵攻などを受け、先端技術の軍事転用が招くリスクをG7各国は強烈に印象付けられた。半導体規制はハイテク分野の覇権争いにとどまらず、中ロの軍事技術の強化を封じる面でも重要性を増している」
政府関係者の一人はこう解説する。中国やロシアを念頭にしたG7の包囲網はさらに強固なものになりそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)