日銀総裁の交代は、「住宅ローン金利」と「住宅価格」にどう影響するか?...専門家が解説【2】(中山登志朗)

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   2023年4月8日、政策金利をゼロもしくはマイナスに誘導するという異次元の緩和を徹底的に継続した黒田日銀の10年が終わります。

   植田新総裁の就任とともに異次元緩和は終わるのか、住宅ローン金利には今後どのような影響があるのでしょうか。

それでも異次元緩和は、いつか必ず終わりにしなければならない

   <日銀総裁の交代は、「住宅ローン金利」と「住宅価格」にどう影響するか?...専門家が解説【1】(中山登志朗)>の続きです。

   植田新総裁は、就任前の会見でも現在の金融緩和策は適切と考えているとの発言があったように、当面は現在の金融緩和政策を踏襲して、消費および所得の拡大による景気の安定的な浮揚を目指す可能性が高いと考えられます。

   ポイントは、この「当面は」がどれくらいの期間なのか。いつ異次元緩和を終了して、「通常の」金融政策に方針を転換するかです。

   金融緩和策は、実は将来の消費や投資を現在に前借りする政策とも言われています。そのため、本来は高い生産性が求められる事業に投資していくことが必要なのですが、低金利政策が10年も続いたことで、生産性の低い投資も相応に増えてしまい、経済の新陳代謝が鈍ったことで潜在成長率は0%台にまで縮小しています。

   この財政規律の緩み(日銀の国債買い入れ額は588兆円まで積み上がり「財政ファイナンス」とも揶揄される状況にあります)を引き締めなければ、必ず将来に大きな禍根を残すことになります。

   したがって、財政の健全化に着手するために、適正と考えられる金利水準まで緩やかに、かつ慎重に引き上げることが求められます。それが植田新総裁の任期5年のうちに実施されることになるのか――。さらに次の総裁に託されることになるのか――。

   それを知る手掛かりは現在のところありませんが、少なくとも、年単位で金融を引き締める事態にはならない、と筆者は考えます。

金融緩和がやめられない理由:日本はGDPギャップが大きく消費が弱い

   なぜ諸外国のように、金融引き締め策に転換できないのか――。日銀が金融緩和をやめられない理由は、実はいくつもあります。

   まず、先進国G7のなかでは突出して多いGDP比256%超、約1,026兆円という国債発行残高を有する日本は、金融引き締めによって利払いが増加すれば、国内経済を圧迫してインフレが加速してしまうことが挙げられます。金利を引き上げて、インフレになるのでは引き締める意味がありません。

   また、日本はGDPギャップが大きい(=消費が弱い)ため、インフレに対する抵抗力が弱く、国内需要が減退することで景気後退することも見込まれます。

   さらには、この消費力の弱さから、2020年平均を100とする日本の消費者物価指数の上昇率は104ポイント程度。諸外国のように10%を超える急激なインフレは発生していませんから、金融引き締めを実施する積極的な理由がないともいえるでしょう。

   ほかには、まさに今回のテーマである住宅ローン金利が上昇すれば、住宅に対する購入ニーズが急激に弱まって、物件価格の下落や市場に出てくる物件数の急減などが発生することが想定されます。

   すると、景気を支え続けてきた住宅産業に大きな打撃を加える結果となって、これも景気後退の一因となり得ます。また、金融引き締めを実施すれば全ての国内産業に影響が及びますから、企業収益の悪化や倒産件数の増加なども懸念されます。

   つまり、政策金利を引き上げて金融引き締めを実施すると、黒田日銀が目指した市場への資金大量投入による景気刺激によって、需要および所得の拡大に結び付ける目論見とは正反対の方向に進みかねないリスクを孕むことになるのです。

   これらの懸念材料が、経済政策によって軽減、もしくは解消することに目処が立たなければ、金融引き締めは事実上極めて難しい、といわなければなりません。

   つまり、金融政策だけで景気を浮揚させるというのは所詮、無理な話。アベノミクスでも主張されていたような「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」など、政治的なアプローチ・経済政策が欠かせないのです。

高騰続く首都圏「憶ション」、黒田日銀による異次元緩和の「落とし子」

   足元では東京都心の新築マンションは平均価格が1億円を突破しており、坪単価が850万円~1,000万円を超える物件も珍しくありません(10億ションもあります)。

   また、都心の築浅タワーマンション最上階近くのプレミアム住戸は、150平米程度で7億円以上の売買価格で流通しています。価格だけ見れば、バブル(もしくはそれ以上)と表現しても差し支えない水準に達しています。これらはまさに、黒田日銀による異次元緩和の「落とし子」だと言えます。

   90年バブルは、当時の大蔵省が通達を出した総量規制(=不動産融資の伸び率が貸出全体伸び率を下回るように求めた規制)によって突然&短期間で崩壊し、その後遺症の大きさによって失われた20年(30年とも言われます)という長いデフレ期から抜け出すことができなかったという苦い経験が我々にはあります。

   住宅ローン金利の急激な変動は、総量規制ほどではなくても、確実に住宅市場をシュリンクさせることを肝に銘じなくてはなりません。そして、いつの日か必ず来る金融引き締めについては、植田新総裁が慎重な姿勢と景気後退を招かないよう、カンフル剤を的確に投入しつつしっかりした制度設計で臨んでもらいたいものです。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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