日銀総裁の交代は、「住宅ローン金利」と「住宅価格」にどう影響するか?...専門家が解説【2】(中山登志朗)

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金融緩和がやめられない理由:日本はGDPギャップが大きく消費が弱い

   なぜ諸外国のように、金融引き締め策に転換できないのか――。日銀が金融緩和をやめられない理由は、実はいくつもあります。

   まず、先進国G7のなかでは突出して多いGDP比256%超、約1,026兆円という国債発行残高を有する日本は、金融引き締めによって利払いが増加すれば、国内経済を圧迫してインフレが加速してしまうことが挙げられます。金利を引き上げて、インフレになるのでは引き締める意味がありません。

   また、日本はGDPギャップが大きい(=消費が弱い)ため、インフレに対する抵抗力が弱く、国内需要が減退することで景気後退することも見込まれます。

   さらには、この消費力の弱さから、2020年平均を100とする日本の消費者物価指数の上昇率は104ポイント程度。諸外国のように10%を超える急激なインフレは発生していませんから、金融引き締めを実施する積極的な理由がないともいえるでしょう。

   ほかには、まさに今回のテーマである住宅ローン金利が上昇すれば、住宅に対する購入ニーズが急激に弱まって、物件価格の下落や市場に出てくる物件数の急減などが発生することが想定されます。

   すると、景気を支え続けてきた住宅産業に大きな打撃を加える結果となって、これも景気後退の一因となり得ます。また、金融引き締めを実施すれば全ての国内産業に影響が及びますから、企業収益の悪化や倒産件数の増加なども懸念されます。

   つまり、政策金利を引き上げて金融引き締めを実施すると、黒田日銀が目指した市場への資金大量投入による景気刺激によって、需要および所得の拡大に結び付ける目論見とは正反対の方向に進みかねないリスクを孕むことになるのです。

   これらの懸念材料が、経済政策によって軽減、もしくは解消することに目処が立たなければ、金融引き締めは事実上極めて難しい、といわなければなりません。

   つまり、金融政策だけで景気を浮揚させるというのは所詮、無理な話。アベノミクスでも主張されていたような「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」など、政治的なアプローチ・経済政策が欠かせないのです。

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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