2023年4月8日、政策金利をゼロもしくはマイナスに誘導するという異次元の緩和を徹底的に継続した黒田日銀の10年が終わります。
植田新総裁の就任とともに異次元緩和は終わるのか、住宅ローン金利には今後どのような影響があるのでしょうか。
それを具体的にイメージするために、まず黒田日銀の10年間に住宅ローン金利動向、および、住宅市場で何が起きたかを検証してみましょう。
黒田日銀のバズーカ以降、「住宅ローン超低金利時代」が10年継続
消費が拡大するにつれて、モノの価格が緩やかに上昇し、連動して家計・所得も伸びるという「拡大再生産型経済社会」を構築するための最初の一転がりとなるのが、異次元緩和でした。
ところが、2022年以降の世界情勢の急激な変化に伴う、コストプッシュおよび円安による物価上昇を除けば、残念ながらインフレ目標2%の達成は叶いませんでした。
それでもこの異次元緩和の影響は、長短金利操作:イールドカーブコントロールの実施によって民間金融機関のさまざまなローン商品の貸出金利を低下させることになりました。なかでも、主力の住宅ローン金利を長期間に渡り超低水準に誘導することとなって、住宅市場の安定的な拡大および住宅価格の上昇を現実のものとしたのです。
人為的にバブル経済を引き起こすくらいの低金利に国債市場を誘導して、市中にお金をばらまくという手法は、借り手がほぼ不在のプロパー融資(主に企業向け直接融資)にはほぼ効果がなかったものの、リテール融資(主に個人・自営業者向け融資)、特に住宅ローンには効果絶大。
異次元緩和が開始された2013年には、主要な長期金利である10年もの新発国債の金利が1%を下回り、その後0.6%台まで低下。これにより、住宅ローン35年固定金利も2.0%を割り込む状況となって、変動金利も1.0%を下回る超低金利状態に突入しました(いずれも優遇後の適用金利です)。
異次元金融緩和下で、住宅ローン金利は低下し、住宅価格は上昇し続けた
日銀の異次元緩和によって、2014年くらいから、住宅を購入し長期のローンを組むには絶好の環境が到来したことになります。
住宅市場はリーマン・ショックによるミニバブル崩壊で失った勢いを短期間で取り戻し、2007年以降下落していた新築マンション分譲価格も、2013年には東京都平均で5,290万円と大台を突破。さらに、2016年には6,038万円、2022年には7,521万円に達しました。
つまり、この10年で2,000万円以上も価格が上昇したことになるのですが、これは異次元緩和による住宅ローン金利の低下がもたらしたもの、とほぼ断言することができます。
物件価格がこれだけ高騰しても、0.3%台の住宅ローンを活用すれば、35年間の毎月の返済額はごくわずかしか増えません。ですから、ある程度の所得者層が購入可能であれば、この低金利を追い風としてハウスメーカーやマンションデベロッパーは、物件を販売し続けることができる状況を日銀が作り出したことになります。
住宅分譲・流通は、これまで日本の景気を支え続けてきた主要産業の1つです。特に現在は、良質で断熱性能の高い住宅の供給が必要とあって、円安やウクライナ侵攻に端を発するコストプッシュ型の価格上昇が発生しても住宅は作り続けていかなければなりません。そうしないと、2050年に目標設定されたカーボン・ニュートラルの達成には「黄信号」が灯ることになります。
したがって、植田新総裁は、就任前の会見でも現在の金融緩和策は適切と考えているとの発言があったように、当面は現在の金融緩和政策を踏襲して、消費および所得の拡大による景気の安定的な浮揚を目指す可能性が高いと考えられます。
ポイントは、この「当面は」がどれくらいの期間なのか。いつ異次元緩和を終了して、「通常の」金融政策に方針を転換するかです。これについては、<日銀総裁の交代は、「住宅ローン金利」と「住宅価格」にどう影響するか?...専門家が解説【2】(中山登志朗)>で説明を続けましょう。(中山登志朗)