商工中金の曖昧な「立ち位置」? 完全民営化で再燃する「民業圧迫」の声 戦々恐々「軒先貸して母屋まで...」

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   商工組合中央金庫(商工中金)の「完全民営化」が実現する見通しとなった。

   中小企業信用保険法および株式会社商工組合中央金庫法の一部改正が2023年3月10日、閣議決定。今国会での審議を経て、法改正から2年以内に政府が保有する商工中金の46.5%の株式をすべて売却する。

   その一方で、自然災害などで経営危機に陥った中小企業への資金繰りを低利で貸し付ける「危機対応融資」を継続。「政府系」金融機関としての、公的な役割を残す。

   そんな「立ち位置」がはっきりしない商工中金の完全民営化だが、「民業圧迫」批判は疎か、早くもその「生き残り」を危惧する声が漏れてきた。

商工中金とは、そもそもどういう金融機関なのか?

   そもそも、商工中金は1936年、商工組合中央金庫法に基づいた「協同組織金融機関」として設立された。

   所管は経済産業省。政府と、中小企業等協同組合や事業協同組合、信用協同組合、商工組合、商店街振興組合、酒造組合、内航海運組合、市街地再開発組合やそれらの連合会、中央会といった中小企業団体が株主である。こうした組合組織に加盟・所属する中小企業に対する金融の円滑化を図るため、必要な業務を営むことを目的としている。

   その後、2006年、小泉政権時に成立した行政改革推進法に「完全民営化」の方針が盛り込まれた。08年10月には株式会社商工組合中央金庫法に基づき、それまでの協同組織金融機関から政府系の特殊な株式会社となった。

   この時に、5~7年後には政府が保有するすべて株式を売却すると決めていたが、その後のリーマン・ショックや東日本大震災などを理由に先送りされてきた。

   そこに、大問題が発生した。2016年以降に発覚した危機対応融資をめぐる不正融資だ。

   問題になった融資は、08年のリーマン・ショックに対応した「危機対応融資」。当時、一般的に銀行から中小企業向け融資の金利は年1.2%だったが、商工中金が提示した金利は1.0%で、その差の0.2%分は国の補助、つまり税金を使って埋め合わせしていた。

   ところが、その国からの利子補給分を「詐取」するため、商工中金がし、融資条件を満たしていない中小企業の財務データを改ざん、融資していた。

   ほかにも、設備資金の不正な融資や地方自治体の制度融資を悪用した不正、公的統計の「中小企業月次景況観測」の調査の捏造(1976年からの調査を廃止)と、「不正のデパート」と化した。

むし返される不祥事 消えない「民業圧迫」批判

   不正が見つかった口座は4609件、融資実行額は2646億円、100店舗のうち97店で不正行為が行われ、不正に関わった職員は444人にのぼった(2017年10月時点)。

   17年5月、経産省が商工中金に業務改善命令を出したが、改善は進まず。その後の金融庁主導の立ち入り検査でも、続々と問題が発覚するという大失態だった。

   不正の原因は経営陣による過度なノルマ達成の大号令にあった。

   当時、「解体」を迫られた商工中金だったが、それを「完全民営化」への道筋と、それまで経産省の天下りポストだった「社長」のイスを民間にすげ替えることで解体を逃れた。

   コロナ禍もあったが、そうやって延び延びになっていた完全民営化が、「何事もなかったか」のように動き出す。

   経産省は昨年末から有識者会議を発足し、「商工中金の在り方」を検討していた。その中で、政府が保有する46.5%の株式を中小企業組合などに売却する一方で、中小企業支援を旗印に「危機対応融資を行う役割を維持する」ことを明記した。

   たしかに商工中金の特徴は、中小企業向けの「危機対応融資」にある。このコロナ禍でも中小企業の資金繰り難を受け、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の需要は急増していた。

   商工中金による協同組合などへの支援や中小企業への融資は、地方の地域経済の中で大きな存在であることも、わからないでもない。とはいえ、不正の舞台となった危機対応融資は継続してまで残しておく必要があるのだろうか――。

   加えて、今後は中小企業専門の金融機関として業務範囲を「銀行並み」に拡大するという。住宅ローンなどの個人向け融資は扱わないが、事業承継やスタートアップ(ベンチャー企業)を支援するファンドの設立を可能にする。そのうえ、地域金融機関との連携・協業の強化なども盛り込んでいる。

完全民営化で浮き彫りになった中小企業金融の在り方

   しかし、じつは商工中金は沖縄から北海道、果てはニューヨーク支店や、上海や香港、バンコクの駐在員事務所といった海外拠点まで、自前のネットワークを有する。

   他の政府系金融機関が融資のみに特化しているなか、預金の受け入れや債券の発行(自ら資金調達が可能)、国際為替、手形を通じた短期金融など、すでに「銀行並み」の幅広い総合金融サービスの提供を可能なのだ。

   まだ、ある。商工中金はすでに「銀行並み」の金融機能を有するだけでなく、新たに盛り込まれた地域金融機関、なかでも規模の小さな信用金庫や信用組合との「連携」「補完」する役割もまた、信金・信組の「親」機関である「信金中央金庫」や「全国信用協同組合連合会」(全信組連)が、すでにそのポジションにある。

   商工中金に入り込む余地はなく、そうなると、信金・信組にとっては「目の上のタンコブ」であり、信金中金や全信組連に至っては「連携」を求められても困惑するばかり。自身の存在意義すら危うくなりかねない。

   ある信用金庫の幹部は、

「取引先の多くは地域金融機関とほぼ同じ。預金に融資、海外支店まで持っているのに、『銀行並み』などとワケがわからない。(業務範囲が広いので)考えようによっては、ゆうちょ銀行並みの巨大な金融機関がもう一つできるのだから、われわれと組もうとか、そんなことをしようものなら、『軒先貸して母屋まで』とられかねない」

と、戦々恐々だ。

   官と民の2つの顔を持つ商工中金の完全民営化で浮き彫りになったのは、中小企業向け金融の在り方であり、多すぎる担い手の存在にある。

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