2023年1月1日時点の公示地価が発表され、商業地や住宅地、工業地を合わせた全用途の全国平均が2年続けて上がり、地方圏の住宅地が平均でプラス0.4%と1995年以来28年ぶりに上昇に転じるなど、東京や大阪などの主要都市だけでなく、地方でも上昇する地域が広がった。
ただ、地域によるバラつきはなお大きく、先行きには金融情勢など不安要素もある。
全体をけん引した3大都市圏...東京圏3.0%、名古屋圏3.4%、大阪圏2.3%それぞれ上昇
国土交通省が2023年3月22日に発表した。全用途の全国平均の前年比上昇率は1.6%と、リーマンショック前の2008年の1.7%に次ぐ15年ぶりの上昇率になった。
上昇地点は全体(約2万6000地点)の58%に達した。東京、名古屋圏は2年連続の上昇になった。全国平均の商業地の上昇率は前年の0.4%から1.8%に拡大した。住宅地の全国平均は1.4%(前年は0.5%)上昇だった。
全体をけん引したのは、やはり都市圏だ。
商業地は大規模な再開発地域を中心に伸長し、東京、大阪、名古屋の3大都市圏の上昇率が前年の0.7%から2.9%に拡大した。東京圏の3.0%上昇、名古屋圏の3.4%上昇に加え、前年横ばいだった大阪圏も2.3%と3年ぶりに上昇に転じた。
インバウンドは回復途上にあるが、今後への期待は強く、東京・浅草、神奈川・鎌倉、京都・祇園といった大都市圏の上昇率拡大などが目立った。
住宅地も、都市部でマンション価格の上昇が続き、テレワークで郊外でも戸建ての需要が拡大。3大都市圏の上昇率が前年の0.5%から1.7%に拡大。千葉県木更津市では、上昇率が20%を超える住宅地もあった。
地方4市も良好...商業地8.1%上昇、住宅地8.6%は10年連続上昇 インバウンドの回復が遅れる地域は厳しい状況
地方で一定程度の復調が見られたのも今回の特徴だ。
地方の中核となる札幌、仙台、広島、福岡の「地方4市」は、大型再開発や交通インフラの整備の進展で商業地が8.1%上がったのに加え、住宅地も住環境や利便性の良さで人気が根強く8.6%と10年連続の上昇になった。都道府県別の商業地の上昇率では、福岡県5.3%、北海道4.9%、宮城県3.6%がトップスリーを占めた。
この中で例えば福岡市は、中心部の再開発が進み、高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン」など外資の進出も目立ち、上昇率は商業地が10.6%、住宅地は8.0%に達した。
回復は、より広い範囲にも広がっている。
3大都市圏や地方4市を除く「その他地方圏」は、住宅地が0.4%と1995年以来28年ぶりに上昇に転じた。全用途でも0.4%上がった。
ただし、地域によってバラつきは大きく、都道府県別でみると、前年を引き続き下回ったのは商業地で23県、住宅地で22県と、それぞれ前年の29県、27県より減ったとはいえ、なお約半分は水面上に浮上できていない。
観光地でも、日本三景の一つ、松島を擁する宮城県松島町は2.6%下落、北海道函館市の五稜郭近くの商業地も1.8%下落するなど、インバウンドの回復が遅れる地域は依然、厳しい状況が続く。
TSMCの工場誘致に成功した熊本県菊陽町周辺、上昇率20%超の地点も
個別の理由で地価が上昇して注目されたところもある。
世界最大手の半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)の工場誘致に成功した熊本県菊陽町周辺では、住宅やオフィスの需要で商業地、住宅地とも上昇率が20%超の地点も。近隣自治体にも波及し、熊本県平均の上昇率は住宅地が前年の0.9%から1.9%、商業地は0.8%から1.9%に拡大した。
商業地28.4%、住宅地30%と、いずれも前年に続き上昇率トップだったのが北海道北広島市。札幌市内の地価高騰で周辺に需要が広がったことに加え、特にプロ野球・日本ハムのホーム球場の新規オープンで商業施設などの需要が加速。北広島に近隣の江別、恵那を加えた3市が住宅地の上昇率の全国上位10地点を占めた。
また、ネット通販(EC)の広がりで、大都市近郊の高速道路のインターチェンジ(IC)や空港の周辺で、大型の物流施設が増えていることも、地価を押し上げている。例えば千葉県柏市は、常磐自動車道・柏IC周辺を中心に、工業地の地価上昇率が16.3%(前年は5・0%)に達した。
世界的な景気の落ち込みと金融不安、来るべき日銀の金融緩和修正に懸念
今後の地価の動きは、インバウンドの回復を含む国内景気に加え、金融市場の動向にも左右されそうだ。
世界的な物価上昇に対応した米欧の利上げが景気を冷え込ませる懸念は根強い。ここにきて表面化した米欧の金融機関の実質破綻や経営不安が、世界経済にどのように影響するかも読み切れない。
国内でも、日銀がいずれは金融緩和の修正に動く日が来る。
住宅ローン金利の上昇、不動産投資へのブレーキなど地価にはマイナスの影響が避けられないだけに、今後の金融政策も注視する必要がある。(ジャーナリスト 白井俊郎)