カーブアウト(事業分離)に強み持つJIP 企業価値を高め、「再上場」を果たせるか?
TOBが成立しても、東芝の衰えた「稼ぐ力」を取り戻せなければ、衰退の道を転がるだけだ。
経営危機に陥って以降、東芝は目先の資金確保のため家電、医療機器、フラッシュメモリーなど、優良事業を次々に売却して急場をしのいできた。売上高は15年3月期の6.6兆円から、23年3月期見通しは3.3兆円に半減。残る事業の半分を占める産業インフラ(発電機器、エレベーターなど)は収益率が低い。
それでも、JIPは少なくとも現在の事業を手元に残す方針とされる。
再建計画の検討過程で、一度は売却対象になった東芝テックなど、事業の切り売りもストップし、「データを起点に事業の価値を深掘りする」(島田太郎社長)という現経営陣の方針が踏襲される見込みだ。東芝テックのPOS(販売時点情報管理)、エレベーター、鉄道などのビッグデータを活用した事業などが有力候補になる。
そこでは、発電機器のユーザーである中部電力、パワー半導体という同業を手掛けるロームなど、買収するJIP陣営の出資者でもある企業との協業も重要になる。
他方、物言う株主が去っても、多様な出資者の存在は迅速な意思決定の妨げになる可能性もある。
JIPは2002年に設立され、国内企業を対象に事業の一部を切り出す「カーブアウト(事業分離)」に強みを持つ投資ファンドで、ソニーのパソコン事業を買い取り、14年に「VAIO(バイオ)」を設立するなど、個別事業での実績はある。ただ、東芝ほどの巨大企業を丸ごと再生させた経験はないだけに、どう仕切っていくかも大きな注目点だ。
何年か先、経営を立て直し、企業価値を高めたうえで再上場というのがJIP陣営のシナリオだが、思うようにいかなければ、今度こそ切り売り・解体の道しかなくなるだろう。(ジャーナリスト 済田経夫)
<東芝年表>
2015年 4月 不正会計が発覚
2016年12月 米原発事業での巨額損失を公表
2017年12月 6000億円の第三者割当増資
2020年 1月 子会社で不正会計が発覚
2021年 4月 英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案が判明/車谷暢昭社長辞任、綱川智会長が社長に復帰/CVCが買収提案を事実上撤回
2021年 6月 20年の株主総会の運営が不公正だったとの調査報告書公表/株主総会で永山治・取締役会議長らの取締役再任否決
2021年11月 会社を3分割する方針を公表
2022年 2月 3分割計画を2分割に修正
2022年 3月 綱川智社長が事実上引責辞任、島田太郎氏が後任に就任/臨時株主総会で2分割計画否決
2022年 5月 再建計画の提案締め切り、非上場化8件などの提案
2022年 6月28日 定時株主総会でファンド幹部2人を含む13人の取締役を選任
2022年 7月19日 国内ファンドなど4陣営が2次入札に進む
2022年 10月 JIPに優先交渉権
2023年 3月23日 JIPの買収提案受け入れを取締役会で決定
<J-CASTニュース バックナンバー>
「東芝」経営再建、JIP中核とする国内連合と「優先交渉」...最大の焦点は、資金調達できるかどうか?(2022年10月26日付)
「東芝」経営再建...「物言う株主」経営陣入り、非上場化の流れ加速か 企業価値高める「最善策」の模索続く(2022年07月3日付)
「東芝」経営再建、投資家から8件の「非上場化」提案...このまま買収の方向で進むのか? 今後を左右する3つの「論点」とは(2022年06月12日付)
いばらの道続く「東芝」経営再建の行方 「2分割」「非上場化」否決...またも戦略練り直し急務(2022年4月3日付)
可決するか? 東芝「2分割」案 臨時株主総会に向けて続く関係者間の激しい駆け引き(2022年2月22日付)
株主が「ノー」前代未聞の異常事態! 東芝経営に「救世主」は現れるのか?(2021年7月4日付)
混迷続く東芝、「過保護」の実態が明るみに 経産省が「物言う株主」に圧力(2021年6月21日付)
社長辞任、CVC買収断念... 混迷の東芝はどこへ行くのか!?(2021年4月24日付)
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