人生の嵐には立ち向かうな。避けろ。逃げて生き抜け!
京都大学の湊長博(みなと・ながひろ)総長は新たな旅立ちへのワクワク感をこう表現した。
「皆さんへの卒業のお祝いの最後に、モンゴメリー夫人の『赤毛のアン』ことアン・シャーリーの言葉を、皆さんに贈りたいと思います。
原文では"I love bended roads. You never know what may be around the next bend in the roads."
私はこれを、『私は曲がり角のある道が大好きだ。次の角を曲がったら、一体どんな景色なのか、どんな人と出会いどんな出来事が待っているのか、わくわくする』という風に解釈しています。
この大河小説の底流に一貫しているのは、人生と自然への自由で尽きない好奇心と他者への限りないエンパシー、そして底抜けに明るい楽観主義です。
これから先の皆さんの人生には多くの『曲がり角』が出てくると思いますが、曲がった先には、思いも掛けぬすばらしい出会いや出来事が待っているかもしれません。それらを大切にして、力強く羽ばたいていかれることを心から期待をしています」
一方、別の表現で旅立っていく卒業生にアドバイスを贈ったのが金沢星稜大学の大久保英哲(おおくぼ・ひであき)学長だ。
「皆さんが船出すると、嵐や台風にぶつかるかもしれません。危険や困難もあることでしょう。でも若者には夢と冒険が似合います。きっと打ち勝つことができます。ただ、1つ覚えておいてほしいことがあります。これまで長い間、私たち日本人は、例えば北に進路を定めたら、目標に向かって一直線。ともかくがむしゃらに突き進むことがよいと考え、またそのように教わってきたように思います」
「しかし、フランスのドゥルーズという哲学者は、世界にはもっと多様で柔軟な生き方が必要なのだと説きました。目の前に嵐や台風が迫っているなら、一直線だなどと言わず、さっさと避けなさい。逃げなさい。命があれば、どれだけ回り道をして時間がかかろうと、いつかは目的地に到達することができるのだと言います」
「若い頃には、その考え方は逃げ腰で、あまり潔くないように思えたのですが、今は社会の多様性を維持していくには、そちらのほうが、はるかに合理的で、勇気が要ることなのかもしれないと考えています。大事なことは、『生きて幸せになること』です。人間は幸せになるために生きるのです。ぜひ、このことを覚えていてください」
そして、最後にこう呼びかけた。
「さあ飛び立ちなさい!」