稲盛和夫氏の信念「人は仕事を通じて成長していく」を贈りたい
東京経済大学の岡本英男(おかもと・ひでお)学長は、「自分の生き方の手本としている、尊敬する経営者」として、京セラの創業者である稲盛和夫氏(2022年8月死去)を取りあげた。岡本学長が何度も繰り返し読んでいる稲盛氏の著作が3つある。『生き方』、『働き方』、『考え方』の3冊だ。
「これらの著作の中で、私自身心の底から賛同し、皆さんにぜひ伝えたいと思うことを2点に絞って述べます。1つ目は、『労働の尊厳、勤労の誇りを取り戻そう』という稲盛さんの主張です。稲盛さんは、謙虚さの美徳と同様に、勤勉がもたらす美徳もまた、改めて考え直し、取り戻さなければならない精神であるとして、次のように述べます」
「戦後、働くという行為の意義や価値が『唯物的に』捉えられ過ぎたきらいがある。働く最大の目的は物質的豊かさを得ることであり、仕事とは、自分の時間を提供して報酬を得るための手段であるという考えに、私たちは慣れてしまっている。しかしながら、もともと日本、あるいは東洋には、労働のもつ精神性、すなわち労働を人間形成のための『精進の場』として捉える視点が、確固として存在していた」
つまり、稲盛氏は「人は仕事を通じて成長していくものだ」と確信しているわけだ。
「このように述べると、『では、好きでもない、楽しくもない仕事を一生続けなければいけないのでしょうか?』と反論される方もいるかもしれません。しかし、そうではないのです。自分の仕事はこれだと覚悟を決め、経験を積み、スキルを高め、精通したと言えるレベルまで実力を磨いてください、と私は述べているのです」
「そこまで到達すれば、人から命令されて働くのではなく、皆さんの意思と裁量で多くのことが決められるようになります。自分が成長することで、どんな仕事でも楽しくやりがいのあるものに変わっていくのです。皆さんもぜひ、このことを心に留めておいてください」