大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:熱き志で世界を救おう編】

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   2022年3月、多くの大学で卒業式が行われて、卒業生たちが巣立っていった。

   ウクライナ危機、人口爆発、気候変動、さらにAI時代の到来という未曽有の歴史の大転換のさなか、それぞれの大学の学長・総長たちは、社会の荒波に飛び込んでいった若者に激励のエールを贈った。

   どう社会と向き合い、どうやって生きていくか。教え子たちを思う熱情にあふれた言葉の数々。J‐CAST 会社ウォッチ編集部が、独断で選んでみた。

  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
    学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)

いまこそ世界の食糧危機をSDGsの原点、わが酪農で救おう

酪農学園大学の堂地修学長(酪農学園大学公式サイトより)
酪農学園大学の堂地修学長(酪農学園大学公式サイトより)

   酪農学園大学は、北海道江別市に広大な牧草地と農園をもつ酪農家のリーダーを育てる私立大学だ。創立者の黒澤酉蔵(くろさわ・とりぞう)は16歳の時に、足尾鉱毒に苦しむ農民救済に奔走した田中正造に師事し、青年行動隊長として闘った熱血漢だ。

   黒澤は酪農とは無縁の貧しい農家出身だったが、ある牛飼いから「牛飼いは役人に頭を下げなくてもよい」「牛が相手だからウソをつかなくてもよい」「牛乳は人々を健康にする」という「酪農三得」を教わり、一生を酪農に捧げる決心をした。

   そして、健やかな土地から生み出される、健やかな食物によって、健やかな生命が育まれるという「健土健民」。神を愛し、人を愛し、土を愛する「三愛主義」。寒地農業に適した酪農を軸とする「循環農法」。この3つをモットーとする学校を作り上げた。

   こんな背景があるだけに、堂地修(どうち・おさむ)学長は卒業生を前に熱弁を振るった。

「国連は世界の人口は、2022年11月に80億人に達すると発表しました。一方で、最大8億人もの人々が飢餓に苦しんでいると言われています。このような時こそ、酪農学園大学の果たす役割は大きいと思います」
「本学の創設者・黒澤酉蔵先生をはじめとする先達たちは、冷害に疲弊する農民救済に奔走しました。今こそ、黒澤酉蔵先生と同志たちが、何に突き動かされて、様々な困難に挑んでいったのか、考えるべき時ではないかと思います」
「黒澤酉蔵先生や先達たちが、私たちに教える建学の精神『三愛主義』『循環農法』は、『誰一人取り残さない』持続可能な世界をめざす開発目標であるSDGsにも通じた考えです。私は、本学の建学の精神は、今まさに世界が必要とし、そして、酪農学園大学で学んだ皆さんを、社会や世界が必要としていると確信しています」

   そして、

「酪農学園大学には、膨大な研究業績の蓄積があります。酪農学園大学の叡智を集めて、現在、日本や世界で起きている様々な問題の解決と、新たに進むべき道を示すことができると考えています。新型コロナに翻弄され、各地で争いが起こっている今、私たち酪農学園大学は『三愛主義』『健土健民』の建学の精神を広く伝えなければならないのです。そのことが私たち酪農学園大学の使命でもあります」

   と、熱く卒業生に呼びかけたのだった。

キミたちは、わが身を省みず被災者のために頑張った学生たちの後輩だ

福島大学の三浦浩喜学長(福島大学公式サイトより)
福島大学の三浦浩喜学長(福島大学公式サイトより)

   3年前の2020年、福島大学は「地域とともに21世紀的課題に立ち向かう大学」という新しい目標を掲げた。三浦浩喜(みうら・ひろき)学長は「その原点はいうまでもなく、2011年に起きた東日本大震災と、東京電力福島第一原子力発電所事故でした」と、こう語りかけた。

「12年前の3月のこの日、皆さんが今座っているこの第一体育館の床には、被災地から命からがら避難してきた百数十名が身を寄せる、ダンボールの仕切りが立ち並ぶ避難所でした。本学は、全国で唯一、避難所を設置した大学となり、教員と学生が一丸となって避難者の命を守りました」
「大学の意地にかけても、避難者に冷たいものは食べさせない、と毎日温かい食事を作り続けました。避難所を運営していたのは、教職員のほかに、公共交通機関が寸断され、自宅に帰れなくなった70名ほどの学生でした。その中には、3月25日に、皆さんのように晴れの姿で卒業式を迎えるはずだった4年生も大勢いました。10日間も風呂に入れないまま、就職先のアパートも探しに行けないまま、避難者のお世話を続けていたのです」

   大学の外でも、学生のボランティア活動は行われていたようだ。不安定になった子どもたちを忍耐強く見守る学生たち。「目の前で困っている人を放って、自分だけが就職していくことは考えられない」と就職試験の直前までボランティアを続けた学生もいたという。

「あれから12年がたち、問題のフェイズは大きく変わりました。人口流出・少子高齢化の中での自治体の再建、復興のための新産業の創出、再生可能エネルギーやALPS処理水の問題。この福島県は、世界的な課題を一足先に抱えた地域となっています。ここに立地する本学は、まさに『21世紀的課題』に取り組まなければならない大学なのです」

   三浦浩喜学長はウクライナ問題にも触れた。

「恐怖に震える人々の表情、地下壕で疲れ切った避難者、救いを求める人々の長い列は、東日本大震災を彷彿とさせます。本学とウクライナは、原発事故を体験した当事者として共同研究を行い、身近な関係にありました」
「世界は常に変化し続けています。大震災や新型コロナ、現在も続くウクライナの悲劇。私たちは危機に直面する度に、ほんとうに大切なものは何か、守るべきものは何かを真剣に考えるチャンスが、与えられます」

   そして、卒業生にこう呼びかけたのだった。

「卒業生の皆さん、皆さんは、12年前に、わが身を省みず被災者のために頑張り抜いた学生たちの後輩であること、福島大学は、そうした貴重な経験を踏まえて、新しい研究分野を開拓してきた大学だということを忘れないでください」

被爆地・広島の使命、「永久平和」カントの言葉を贈ろう

広島大学の越智光夫学長(広島大学公式サイトより)
広島大学の越智光夫学長(広島大学公式サイトより)

   被爆地・広島にある広島大学は、「平和を希求する精神」を大学の理念に掲げている。とくに今年は、5月に広島で「核兵器のない世界を目指すG7サミット」が開かれるとあって、広島大学も国際NGOや新聞社などと協力し、いくつかの「核兵器廃絶シンポジウム」を計画している。

   越智光夫(おち・みつお)学長の卒業生を送る言葉にも、平和への願いに熱が入った。

「被爆地・広島にある大学として果たすべき使命は何なのか、私たちは絶えず問い続けていかなければならないと考えています。たとえ、行動として形として結実しなくとも考え続けることを止めてはならないと考えます」
「近代哲学の祖として知られるイマヌエル・カントが71歳の時に発表した『永遠平和のために』という著作があります。ドイツ語の初版本は広島大学図書館にも所蔵されており、平和論の古典といわれる名著です」
「カントは永遠平和のための6つの予備条項を示しました。その中の第5条項に『いかなる国家も他の国家の体制や統治に暴力をもって干渉してはならない』、第6条項には『いかなる国家も他国との戦争において、将来の平和への相互信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない』と記しています」
「ただ、現下のウクライナ侵攻をはじめ国際情勢を重ね合わせてみると、他国の理不尽な行為に対してどう向き合っていくのか、国際社会は厳しい試練にさらされていると言わざるを得ません」

   そして、卒業生にはなむけの言葉として、カントの知恵に導く行動原理を贈った。それはこれだ。

「自分で考えること」
「あらゆる他の人の立場に身を置いて考えること」
「つねに自分自身と一致して考えること」

クラーク博士と葛飾北斎のチャレンジ精神に学ぼう

北海道大学の宝金清博総長(北海道大学公式サイトより)
北海道大学の宝金清博総長(北海道大学公式サイトより)

   人生にミッションを持ち、絶えずチャレンジして世界を変えていってほしい――。卒業生にそう呼びかけたのが、北海道大学の宝金清博(ほうきん・きよひろ)総長だった。

「卒業生の皆さんの今後には、2つの人生の選択が待っていると思います。1つは、世界・社会を変える人生、もう1つは、変わってゆく世界に翻弄される人生です。この2つの人生の差が、どこから生まれるのか明らかです」
「世界を少しでも良い方向に変える人は、常に学び続け、チャレンジし続ける人です。逆に、大学を卒業した瞬間に能動的な学びを忘れ、チャレンジを放棄した人は、世界の変化に翻弄され続けることになります」

   そして、年齢を重ねてもチャレンジをやめなかった人として、浮世絵師の葛飾北斎をあげた。

「葛飾北斎が、あの驚くべき富嶽三十六景の神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)を描いたのは、彼が70歳前後の頃と言われています。彼は享年90でこの世を去りますが、死の床で、『自分にもう5年の寿命があれば、真の絵師になれたのに』というような悔恨の言葉を残しています」

   もう1人、不屈のチャレンジ精神の持ち主を挙げた。北海道大学の創立者、ウィリアム・スミス・クラーク博士だ。

「クラーク先生は、今から約150年前に、アメリカ東海岸、ボストンに近い、マサチューセッツ農科大学の学長という高い地位にいました。1876年、彼は大陸を横断し、命がけで太平洋を越え、東京で英語を学んだ学生13名と共に、荒涼たる札幌にやってきます」
「クラーク先生のこの選択は、どう考えても凡人の想像を超える挑戦であったと思います。札幌農学校の礎を築くというミッションを成し遂げると、彼は、『Boys be ambitious, like this old man!』(少年よ、大志を抱け。この老いた男のように!)という、実にシンプルで、心に突き刺さるメッセージを残して、札幌を去ります」

   帰国したクラーク博士は事業を起こしたが、不運が重なり、不遇のうちに59歳で、生涯を終えた。

   宝金総長は卒業生にこう訴えた。

「皆さんは、私たちの最高のロールモデルであるクラーク先生の『Be Ambitious』の精神を胸に、学びを続け、挑戦を続け、勇気をもって、これから始まる新しい人生を堂々と歩んでください」

地球人口の半数以上が8か国に集中する、暗黒の未来に希望は?

駒澤大学の各務洋子学長(駒澤大学公式サイトより)
駒澤大学の各務洋子学長(駒澤大学公式サイトより)

   地球の将来はどうなっていくのか――。卒業生たちが80歳代になった頃に訪れるディストピア世界(ユートピアの逆となる世界)を、きわめて具体的に描いてみせ、逆説的なかたちで卒業生を励ましたのが、駒澤大学の各務洋子(かがみ・ようこ)学長だ。以下は、令和4年度(2022年度)9月学位記授与式(卒業式)での学長式辞だが、ぜひ取り上げたい。

   各務学長は、世界の人口爆発のすさまじさをこう訴えた。

「今年は、地球に80億人目の住人が誕生すると見込まれる節目の年を迎えました。国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、今年11月15日には80億人に達するとのことです。この先、2050年には97億人、2080年代、皆さんが生きている間に、約104億人でピークに達し、しばらくそのレベルに留まると予測されました」
「その間、日本を含めた61の国や地域では人口が減少傾向にあり、人口の半数以上は8か国に集中すると分析されています。その8か国とは、インド、エジプト、パキスタン、フィリピン、そしてアフリカの4か国(エチオピア、コンゴ共和国、タンザニア、ナイジェリア)です」

   人口超密集地帯と減少地帯という、想像を絶する格差が地球規模で生まれるわけだ。いったい、どうなるのだろうか。各務学長はこう結んだのだった。

「パンデミックや戦争、人口爆発と、想定外の深刻な問題はますます地球環境を悪化させる原因になります。皆さんが大学時代に専門とされた学問が何であろうとも、こうした世界を巻き込む地球環境の変化に対して共に乗り越えていかなければなりません」
「幸い、本学を卒業される皆さんは、こうした先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代を力強く生きる『智慧と慈悲の精神』をもち、『しなやかな、意思』を身に付けています。誇りをもって大海に乗り出してください。本学で学んださまざまな知識と知見を社会の現場で日々実践してほしいと思います」

   熱情にあふれた言葉の数々......「心を震わす学長の挨拶」はまだまだあります。<大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:ビジネスの巨人に学ぼう編】>もぜひどうぞ。

(福田和郎)

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