就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、三菱創業100年の記念事業として1970年に設立されて50年以上の歴史を持つ三菱総合研究所(三菱総研、MRI)です。
2009年に東証二部上場、2010年に東証一部(現プライム)に市場変更。最近は海外における事業展開に向けて、2020年にベトナム(ハノイ)、2021年にUAE(ドバイ)に拠点を開設しています。
売上高・営業利益ともに2期連続過去最高
それではまず、三菱総研の近年の業績の推移を見てみましょう。
三菱総研の連結売上高は右肩上がりに伸びており、2022年9月期は2期連続過去最高となりました。
2019年9月期こそ前期比減となりましたが、その要因は複数のシステム案件の完了に伴う反動減や、主要顧客の大型開発計画の見直しなどに伴う一時的なもの。その後は急回復して、1000億円の大台を超えています。
営業利益については、売上高が前期比減となった2019年9月期を含め一貫して前期比増を続けており、こちらも2期連続過去最高を記録し、営業利益率も7.9%と大きく改善しました。
2023年9月期の業績予想は、売上高が前期比1.2%増の1180億円、営業利益が同1.5%増の93億円、営業利益率は7.9%となる見込み。なお最終利益は、前期に計上した投資有価証券売却益等の特別利益の影響が解消されるため、減益を見込んでいます。
ITサービスが売上高の58%を占める
三菱総研は2つのセグメントで事業を展開しています。ひとつめは政策や一般事業に関する調査研究およびコンサルティングを実施する「シンクタンク・コンサルティングサービス」で、もうひとつはソフトウェア開発・運用・保守、情報処理・アウトソーシングサービスを実施する「ITサービス」です。
シンクタンク・コンサルティングサービスは、官公庁向けの調査・分析等の案件に強いことで知られており、連結売上高全体の30.8%を官公庁向けが占めています。また、民間企業向けにも、戦略から業務革新、ITコンサルティングまで幅広く展開しています。
ITサービスは、連結子会社の三菱総研DCSが中核となり、金融、製造、流通、サービス、文教等の各分野において事業を展開しており、連結売上高全体の45.7%を金融業(三菱UFJフィナンシャル・グループ)向けが占めています。
また、ITサービスでは、給与人事サービス「PROSRV」を主力とした情報処理サービスや、千葉情報センターを利用した基幹システムのアウトソーシング・BPOを行っています。
2022年9月期の売上高(外部売上高)構成比は、ITサービスが58.4%と過半数を占め、シンクタンク・コンサルティングサービスの41.6%を上回っています。ただし後者は、官公庁分野のコロナ関連AIシミュレーションを含む大型案件等により、前期比で20.2%増と大きく伸びました。
同経常利益構成比は、ITサービスが50.5%、シンクタンク・コンサルティングサービスが49.5%と拮抗しており、後者の利益率の高さがうかがえます。
平均年間給与は1111万円から微減
三菱総研の2018年9月期の連結従業員数は3918人。翌期から4011人→4133人→4231人と少しずつ増え、2022年9月期には4235人となっています。
DXという追い風があり、他のITコンサルティング会社は人数を大きく増やしていますが、ITサービスの従業員数は、2018年9月期の2842人から2022年9月期の2921人にとどまり、ほとんど増えていません。
単体従業員数は、2018年9月期の891人から930人、977人、1021人とこちらも微増の範囲で、2022年9月期は1093人となっています。
一方、三菱総研の平均年間給与(単体)は右肩上がりに増えており、2020年9月期には1000万円の大台に。2021年9月期には1111万円まで増えましたが、2022年9月期は1024万円にやや減少しました。平均年齢は42.3歳、平均勤続年数は14年1ヶ月です。
なお、この数字は三菱総研単体のものなので、シンクタンク・コンサルティングサービスに関わる従業員の平均給与等ということになります。ITサービスに関わる三菱総研DCSが同様の給与水準である保証はないので、注意が必要です。
三菱総研の採用サイトには、新卒採用とキャリア採用のページがあります。キャリア採用では、エコノミスト、各種コンサルタント(技術/政策/経営/事業/DX)、事業企画・営業企画、IT企画・管理、営業・アライアンスといった幅広い職種で募集が行われています。
三菱総研DSCの採用サイトにも、中途採用求人が掲載されており、こちらは部署ごとに業界向けのコンサルティング営業や開発エンジニアなどの募集が行われています。たとえば、金融業界向け開発エンジニア(PL/PM候補)では600~1000万円、製造業向けソリューション営業でも同額の想定年収が示されています。
DX事業のPMが積極募集されている理由
三菱総研の株価は、2014年には1000円台で推移した時期もありましたが、2018年7月に5500円をつけるまで順調に上昇。2020年3月にはコロナショックで2560円まで落ち込みましたが、その後は回復に転じ、2023年2月には5310円の高値に。現在は5000円前後を推移しています。
2022年9月期に経常利益100億円を突破し過去最高益を記録している三菱総研は、業績好調であることに間違いありません。しかし、同様のITコンサルティングを行っている会社が、DXを追い風に急成長しているのと比べると、業績伸長の勢いが強いとはいえないかもしれません。
営業利益率は1桁台で、野村総研の17.4%、電通国際情報サービスの14.4%、TISの11.3%と比べても大きく下回ります。
官公庁向けと金融業向けという「大口固定顧客」が連結売上高に占める割合が4分の3にのぼるため、それ以外の一般事業会社で急増するDX案件を獲得していく社内体制がとられていないのかもしれません。
ただし、三菱総研の採用サイトを見ると、「三菱総研が推進するDX事業 社会課題解決に取り組むプロダクトマネージャー募集」という特設サイトへのリンクが貼られており、DX領域への事業拡張の意欲が垣間見られます。
サイトには「海運・データ利活用」「電力」「デジタル通貨・地域活性化」「スポーツ・キャリア」といった具体的なプロジェクトの概要と、そこに関わるプロジェクトマネージャーの生の声が紹介されています。
ITシステムによる課題解決策や運用などを伴う戦略提言が求められる昨今、三菱総研でも今後はDX領域への積極的な進出によって、業績をさらに伸ばしていく余地が大いにあると考えられるのではないでしょうか。(こたつ経営研究所)