「Web3」は自由をもたらすと期待されたが...
この「支配と隷従」に対抗しようとしたのが、「Web3」の動きである。ビットコインで有名な技術、ブロックチェーンを中心に考えられている新たなインターネットである。
ブロックチェーンというのは、「あらゆる取引が記録されている台帳」である。「台帳を独占管理している企業が存在しない」「台帳の改ざんがほとんど不可能」という特徴があるので、自由をもたらすものと考えられた。
しかし、2022年現在の「Web3」は、「山師」たちの単なるお祭り騒ぎにすぎない、と批判している。コピー可能なデジタルデータを、資産としても扱えるとして話題になったNFT(非代替性トークン)は、高騰したがすぐに暴落。ビットコインなどの暗号資産も投機的な金融商品の域を出ない。
まだ「山師たち」が跋扈している混沌とした現状だが、「Web3」の持つ概念そのものは大いなる可能性を持っており、一般社会で人と人が関係し承認されるためのテクノロジーとして使われるようになると期待している。
それは、カネ儲けのためだけに人と関係するのではなく、より精神的な「関係したい」「承認されたい」という人間の本能に根差した欲求があるからだ、と説明する。
さまざまなテクノロジーは、この方向に寄り添っていくと予想。たとえば、自動運転が地方都市の形態を変えると期待している。公共交通システムとしての自動運転が広まれば、ショッピングモールには巨大な駐車場は要らなくなるという。自宅からモールの入り口まで公共の自動運転車で行き、帰りも同じように帰宅すればいいからだ。
その結果、自動運転が普及した地方都市で、できるだけ歩かなくてすむようにするには、店から店へとクルマで移動できる、昔の駅前商店街のような形になると予想している。
自動運転車は店の前まで行き、買い物が終わるとどこからともなくやってきて、自宅に連れ帰ってくれる。ほとんど歩かなくてもいい。街の形態も「集中」から「分散」へと変わる。
AIとビッグテックによる「監視資本主義」批判への理論的な検討を経て、佐々木さんは、「支配と隷従」から「関係と承認」という新たなシステムが社会に根付くと期待している。たいへん刺激的な論考の書である。(渡辺淳悦)
「Web3とメタバースは人間を自由にするか」 佐々木俊尚著 KADOKAWA 1650円(税込)