化学大手、日本触媒の株価が2023年3月23日の東京株式市場で一時、前日終値比475円(8.9%)安の4995円まで下落した。2022年3月9日につけた昨年来安値(4985円)に迫り、約1年ぶりの安値になった。前日22日に2023年3月期連結決算の業績予想を下方修正したことが投資家に嫌気され、売りを集めた。
「電子情報材料分野」ではディスプレイ需要の回復遅れも、落ち込み要因に
下方修正の内容を確認しておこう。売上高は従来予想比200億円少ない4200億円(前期比13.7%増)、営業利益は従来予想比55億円少ない210億円(前期比27.2%減)、最終利益は従来予想比40億円少ない170億円(前期比28.3%減)と、軒並み落ち込むと予想している。
要因は、(1)紙おむつなどに使われる主力の高吸水性樹脂などが、需要減退や顧客の在庫調整などによって想定以上に販売数量の減少を招く、(2)電子情報材料の分野でもディスプレイ需要の回復の遅れにより関連製品の販売数量が減少する、(3)電子情報材料の一部の製品で減損損失を計上することが営業利益や最終利益の減益に響く――などだ。
ただ、期末配当予想については、1株当たり90円とすることを変更しなかった。
高吸水性樹脂「アクアリック」は、紙おむつ原料で世界トップシェア EV用リチウムイオン電池の粉末材料も存在感
ここで、なじみの薄い方も多いとみられる日本触媒という会社について振り返ってみる。
1941年に大阪市で「ヲサメ合成化学工業」として設立。当初の社名には創業者の名前を冠した。現社名となったのは1991年。今も本社は大阪市に置いている。
1959年に開発した酸化エチレンはペットボトルのPET樹脂の原料やポリエステル繊維の原料、建設資材や洗剤の原料など日本の石油化学工業の発展に寄与した。
1985年に大規模生産を開始した高吸水性樹脂「アクアリック」は、優れた吸水性と保水性を有することで紙おむつ材料に採用され、飛躍的に普及した。現在でも紙おむつ原料の高吸水性樹脂としては世界トップシェアを誇る。
最近では、電気自動車(EV)用のリチウムイオン電池に使う粉末材料などにも存在感を見せている。
海外売上高比率は2022年4~12月期で57.0%に達している。
日本触媒は近年、原料高分を上乗せする価格を取引先に浸透させることで高収益を保ってきたが、今回の下方修正によって肝心の販売数量が減っている事態が明らかになり、投資家の動揺を誘った。
今後、世界的に景気が減速すれば先行きの業績の重しとなりかねないといえそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)