2023年度に正社員の採用予定がある企業は63.0%で、前年度から0.8ポイント増えたことが、企業信用調査の帝国データバンクの調べでわかった。2023年3月20日の発表。
なかでも、採用人数を増加する予定の企業は25.7%と、4社に1社にのぼる。また、賃上げを実施する企業は雇用にも前向きなことがわかった。
2023年度に正社員の採用予定がある企業は63.0%
調査によると、2023年度(4月~24年3月入社)の正社員の採用状況について聞いたところ、「採用予定がある」(採用人数が「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)と考えている企業は前回調査(22年2月実施)から0.8ポイント増の63.0%となり、2年連続で上昇した。
また、採用予定がある企業の内訳をみると、採用人数が「増加する」企業は25.7%。これは、前年度から0.2ポイント増えて、コロナ禍前の2019年度(23.4%)を上回り、4社に1社で増加する見通しとなっている。【図1参照】
この3年の雇用動向をみると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受けた2021年に「採用予定がある」と答えていた企業は55.3%だった。それが、昨年が62.2%、今年は63.0%とコロナ禍による行動規制の緩和が進むにつれて、雇用が動き出したことがわかる。【図2参照】
採用人数を「増加する」と答えた企業からは、
「接客スタッフ(主に料飲、宿泊部門)が不足ぎみのため、新入社員を多めに採用」(旅館、神奈川県) 「人手不足は続いており、雇用は急務と考えている。ただ技術職の採用については、成り手がいないことから、雇用の条件や会社自体の魅力作りに力を入れている」(木造建築工事、栃木県)
などの声があがっている。
帝国データバンクは、「多くの企業で人手不足が厳しいなか、人材を引き寄せるために従業員への待遇などさまざまな工夫をしている様子がうかがえた」としている。
正社員「採用予定がある」 トップは82.8%で「医療・福祉・保健衛生」
一方で、「採用予定はない」と答えた企業は26.1%で、前年度から1.3ポイント減った。「わからない」は10.9%だった。調査では、
「電気代・燃料代の高騰で雇用に回せる余力がない」(洗濯、群馬県) 「地方の中小企業で正社員を採用するのは、非常に厳しくなっている。さらに賃上げ圧力や利益の減少など難題も多く、採用できても維持していけるか疑問である」(ガソリンスタンド、山形県)
といったコメントがあるように、原材料費や人件費などコストの高騰で経営が圧迫され、従業員を雇う余裕がない企業もあった。
また、正社員の「採用予定がある」企業を規模別にみると、「大企業」が86.3%を占めた。その一方で、「中小企業」は58.7%、「小規模企業」は41.8%で、企業規模が小さいほど採用を抑える傾向が強い。
業界別にみると、「運輸・倉庫」が70.0%で最も高くなった。次いで、「サービス」が69.0%、「建設」が68.1%で続いた。なかでも、「サービス」は約3社に1社が採用人数の増加を見込んでいる。
さらに、業種でみると、「医療・福祉・保健衛生」では82.8%と、8割超の企業が採用を予定しているほか、「旅館・ホテル」が79.3%、「輸送用機械・器具製造」の76.8%も8割近くにのぼる。「人材派遣・紹介」では、採用を「増加する」企業は42.3%となった。【図3参照】
企業からは、「賃上げを踏まえ、採用計画を思案中」(一般病院、長崎県)といった前向きな声が聞かれた。その半面、たとえば、
「サービス業の中小零細企業にとっては新卒採用はもとより、中途採用も難しく、大変厳しい状況になってきている。理由は採用時の賃金などの条件面の優遇が些少しかできず、大企業も新卒採用を再開しているため、こちらへの応募が少ない。また、コロナ禍でサービス産業に対するイメージが悪く、業界的に働きたい職種ではなくなっている」(旅館、島根県)
というように、人材が集まらず厳しい状況にある企業も多くみられる。
非正社員の採用予定は47.3% 前年度比1.0ポイント増、2年連続の上昇
一方、2023年度の非正社員の採用状況について聞いた。それによると、「採用予定がある」(採用人数を「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)企業は47.3%で、前年度から1.0 ポイント増えた。勢いは前年より衰えるも、2年連続で上昇した。採用人数を増加する予定の企業は13.4%。前年度比 0.9ポイント増と、コロナ禍前の2019年度を若干上回った。
非正社員の「採用予定がない」企業は39.2%。同1.9ポイント減となった。【図4参照】
非正社員の「採用予定がある」企業を規模別にみると、正社員と同様に企業規模が小さいほど採用意欲が低くなっている。業界別では、「農・林・水産」が60.2%で最も高く、「小売り」が58.8%、「運輸・倉庫」の56.9%も6割近くの高い水準で続いた。
業種別でみると、「飲食店」の91.4%や「旅館・ホテル」の80.5%、「飲食料品小売り」の75.3%、「娯楽サービス」の73.4%など、個人消費関連の業種で「採用予定がある」企業が多い傾向にある。【図5参照】
なかでも、「飲食店」では採用人数が「増加する」企業が約5割にのぼった。帝国データバンクは、新型コロナウイルス感染症対策の行動規制の緩和による人流の増加で、人手不足感が高まり、採用が活発となっているとみている。
正社員・非正社員ともに「賃上げ」する企業ほど採用に積極的
さらに、企業が「どのような職種の人材を求めているか」(複数回答)聞いたところ、販売、営業職などの「販売の職業」が42.1%でトップとなった。
次いで、開発・製造技術者などの「専門的・技術的職業」(33.9%)、一般事務員などの「事務的職業」(20.8%)、役員や管理職などの「マネージメント職」(20.7%)が続いた。【図6参照】
ほかにも、システムエンジニアや通信ネットワーク技術者などの「IT関連の職業」(16.4%)や「建設・採掘の職業」(15.1%)、データサイエンティスト、データエンジニアなどの「データ分析・技術職」(7.6%)と幅広い。
ところで、2023年度に賃上げを見込んでいる企業をみると、63.9%が正社員の「採用予定がある」。その一方、「採用予定はない」企業は44.3%にとどまり、採用予定の有無と賃上げの実施割合をみると、19.6ポイントの開きがあった。
非正社員でみると、「採用予定がある」企業の賃上げ割合は37.0%で、「採用予定はない」企業の賃上げ割合(15.4%)より、じつに21.6ポイントも上回っていた。【図7参照】
調査によると、賃上げと採用予定には緩やかな相関関係がみられ、賃上げ割合が1ポイント上昇すると採用予定割合が0.5ポイント上昇するという傾向が表れていたという。企業からは、こんな声が――。
「人手不足感があるが、採用レベルを下げずに雇用を進める。特にパートタイム勤務者について近隣地域の賃金を調査し、見劣る部分は時給を上げる」(医療用品製造、栃木県) 「今年度は雇用条件(賃金)をアップしてハローワークへ提出したものの、応募が高齢者以外はない状況」(冷暖房設備工事、岐阜県)
帝国データバンクは、
「採用において賃金など条件面で苦慮している企業は多くみられたが、人手不足が再び高まる中で、よりよい人材の確保が生き残りのための重要な要素になる。とりわけ中小企業でも正社員採用を『増やす』企業が4社に1社にのぼるなど、人材の獲得競争が一段と強まっていく可能性がある」
と指摘している。