【「年収の壁」問題】岸田首相、「制度見直し」表明 不公平感なくすには「第3号被保険者制度」が不要?

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   岸田文雄政権が検討している少子化対策で、「年収の壁」が大きな焦点になっている。

   配偶者に扶養されているパート労働者らの年収が一定額を超えると、税や社会保険料の負担が生じ、年収が増えても手取りが減るという問題だ。首相は「手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援を導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と表明し、政府内では、社会保険料負担の増加分を一部肩代わりすることを検討している。

   ただ、こうした補助は一部の人を利すことになり、社会保険の負担と給付の公平性をゆがめるとの批判は強い。

  • どうする岸田首相
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4つの壁が存在 税金にかかわる「103万円」「150万円」の壁は影響少なく

   年収の壁というが、金額的には103万円、106万円、130万円、150万円の4つがある。所得によって税金や社会保険料が新たに発生したり、負担が増えたりするものだ。そのため、女性の就労を抑えると問題視されてきた。

   むろん、壁の解消が直接少子化対策になるわけではないが、教育費の負担が重いなか、世帯収入が増えることで、子供を育てやすくする効果が期待される――そういう意味で、少子化対策の一つに位置づけられる。

   実際の壁を確認しておこう。

   まず、税金にかかわるのが「103万円」と「150万円」の壁。

   妻の年収が103万円を超えると、新たに所得税がかかるようになる。ただ、この水準では税率が低く、大きな影響はない。

   150万円を超えると、夫の配偶者特別控除が段階的に減り始め、その分、夫の税金が増えていく。だが、これも、徐々に税負担が増えるので、夫と合わせた手取りの減少は、多くの場合には起きないという。

社会保険料にかかわる「106万円」の壁...負担は増えるが、長い目で見るとプラス面も

   次が、社会保険料にかかわる「106万円」「130万円」壁。

   これらは、税金の壁よりも影響は大きい。会社員や公務員などの夫に扶養される妻が、保険料を納付しない「第3号被保険者」から、保険料を払うように変わるのが典型例だ。

   106万円の壁は、勤務先の従業員数が101人以上の会社で、週20時間以上の短時間労働で、月額賃金が8万8000円(年収換算約106万円)以上などの条件に該当すると、▽厚生年金に入ること、▽夫の会社の健保組合も離れ、妻が自ら厚生年金保険料と健康保険料を納付することになり、約15万円の負担が発生する。

   ただし、将来の年金の額が増えるので、長い目でみるとマイナスとは限らない。

   たとえば、105万円から110万円に収入が増えたとすると、足元の月収の手取りは減るが、厚生年金の受け取りを考えると、80歳代前半で「元が取れる」。つまり、生涯収入はプラスになる。

   健保組合に入るプラス面もある。具体的には、病気で働けない際の「傷病手当金」(給与の3分の2)や「出産手当金」など、従来の夫の扶養家族としてでは夫の会社の健保組合から受けられなかった給付も、新たに自分が加入した健保組合からの支給対象になる。

社会保険における扶養の最終ラインが「130万円」の壁...超えると、世帯収入の減少につながる

   130万円の壁は、勤務先の従業員が100人以下で、年収が130万円以上になると夫の社会保険から外れることを指す。

   パート先の会社の厚生年金、健保組合に入れない(週30時間以上勤務などの条件を満たさない)場合、第3号被保険者でなくなり、国民年金・国民健康保険に妻自身が加入しなければならず、保険料を新たに負担することになる。このケースでは、保険料負担が増える一方、106万円の壁のように、将来の厚生年金の支給はない。

   税や年金以外にも、妻の年収額が一定以上になると、夫の会社の「扶養(家族)手当」が停止されるケースもあり、この場合はストレートに世帯収入の減少になる。

   こうしたことから、野村総合研究所がパートで働き、配偶者がいる女性約3000人にアンケートしたところ、62%が「壁」の手前で就業調整(労働時間の調整)をしていると回答している。

   とくに、賃上げや最低賃金引上げなどで時給は上昇傾向だが、「時給を上げても、パート労働者が年収の壁で労働時間を減らすため、かえって人手不足になるという本末転倒の状況も見られる」(スーパー業界関係者)。

「年収の壁」対策で、政府は企業への助成金を検討...だが、2つの「不公平」がある

   岸田首相は2023年3月17日、少子化対策をテーマに記者会見し、育児休業の取得促進策などとともに、手取りの逆転を生む「年収の壁」対策にも言及した。

   政府内で浮上しているのが、106万円と130万円の壁への対応だ。

   具体的には、結婚して配偶者の扶養に入っている人を対象に、年収の壁を超えると生じる保険料負担を企業が肩代わりすれば、企業にその分の助成金を出すというもの。

   自民党の萩生田光一政調会長らが1月の衆院予算委員会で検討を求めた。岸田首相は国会では「問題意識は共有する」と述べつつ、「公平性の問題もある」とも答弁していた。

   公平性については、2つの「不公平」がある。

   同じようにパートで働いていても単身者は助成されないので、扶養される主婦のパートだけが優遇されるという足元の不公平が一つ。

   さらに、106万円の壁で言えば、国民年金の第3号被保険者から勤務先の厚生年金に切り替わったとき、本人の負担なしに老後の年金額まで単身者に比べ優遇されることになるという、将来にわたる不公平だ。

   さすがに、こうした批判を意識し、岸田首相も、助成は時限的な措置にとどめる考えとされ、「制度の見直しに取り組む」と述べている。

   制度見直しとは、究極的には被扶養者が保険料を負担しない仕組み、つまり第3号被保険者をなくす方向になる。

専業主婦優遇の制度は、時代にそぐわないが...本気の「第3号」見直しには、抵抗も

   専業主婦優遇の制度は、共働きが当たり前の時代にそぐわないという議論は厚生労働省の審議会などでも話し合われてきた。

   パートなどの厚生年金への加入が義務になる企業規模は、従業員数101人以上から、2024年10月から51人以上に拡大され、130万円の壁の範囲は狭まるが、なくなるわけではない。

   第3号被保険者は21年度で763万人。既得権となっているだけに、手を付けるのは並大抵のことではない。家庭を重視し、専業主婦を是とする自民党の保守派などに強い「伝統的家族観」ともぶつかりかねず、岸田首相が本気で取り組むか、疑問視する向きは永田町や霞が関にも多い。

   岸田政権は3月末をめどに少子化対策の政策パッケージで示し、6月までに必要財源なども提示する方針だ。「異次元」の少子化対策にと意気込む首相だが、付け焼刃の対応に終わるなら将来に禍根を残すことになる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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