スマートフォンの基本ソフト(OS)で、9割超のシェアを2社で握る米アップルとグーグルに規制の動きが強まっている。
公正取引委員会は、アプリ提供事業者への高額な手数料や自社アプリの優遇は独占禁止法上、問題になる恐れがあるとする報告書をまとめ、必要な法整備に乗り出す方針を示している。同様の動きは世界各国にも広がっている。
自由競争が促進され、料金引き下げにつながれば利用者にはありがたい限りなのだが...。
強い市場支配力を持つアプリストア...「競争に悪影響をもたらす恐れのある自社優遇を行い得る」
民間調査会社によると、2022年の国内スマホOS市場のシェアは、グーグルのAndroid(アンドロイド)が51.2%、アップルのiOSが44.6%を占め、2社の寡占状態になっている。
公取委の報告書がまず問題にするのは、このOSだ。
消費者は使い始めたスマホに慣れ、操作方法が変わる別のOSの機種に乗り換えにくい。2社以外のOSが新たにシェアを獲得するには、多額の資金や技術力などが必要で、報告書は「十分な競争圧力が働いていない」と断じた。
もう一つの大きな問題が、アプリ配信の窓口であるアプリストアだ。
アップルは自社のアプリストア以外の利用を認めていない。グーグルは自社以外のストアを認めているが、97%超が自社ストア経由で流通し、競争は限定的となっている。
公取委の報告書は、アプリ市場では2社以外の参入事業者も多く「競争が一定程度行われている」と分析しつつ、2社がOSとアプリストアで強い市場支配力を持つため「競争に悪影響をもたらす恐れのある自社優遇を行い得る」と指摘した。
とくに課金にも言及。アップルの「ストア」の場合、ゲームの課金などアプリにおける決済にアップルのシステムの利用が義務づけられており、15~30%の手数料を徴収されるため「アップル税」などと呼ばれ、問題になってきた。このことは、J-CASTニュース 会社ウォッチでも、「『高すぎる!』アプリ開発者が不満を漏らす『アップル税』 手数料徴収の仕組み改善へ」(2021年9月24日)などで報じてきた。
公取委は「運用改善策」を指摘 ただし、アプリストアの開放で有害なコンテンツの拡散も?
公取委は課金について、一方的に高額な手数料を設定して事業者が不利になるのは、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」などにあたる可能性があるとの見解を示した。
このOSとアプリストアの問題のように、競争が不十分な市場では、寡占企業により新規参入が阻害されるなど、消費者が不利益を受けかねない。
このため、公取委は「参入の余地を拡大するなどの競争政策上の対応が有効」と指摘。利用者が別のOSのスマホに乗り換えやすくするためにデータポータビリティー(持ち運び)を提供する▽OS機能やシステム更新の情報開示▽公平なアプリ審査▽自社以外のアプリ内課金システムの容認――などの運用の改善を促している。
ただ、報告書はグーグルやアップルが独禁法に違反する行為があったと認定しているわけではない。また、列挙した運用改善策も、強制力はない。
実際、2社は自社を有利にするためのデータの不正利用などを否定している。また、仮にアプリストアを開放すれば、不正目的の事業者が入り込む危険性が高まるとの見方もある。
有害なコンテンツの拡散を防ぐことや、安全性を確保するといったプラットフォーマーとしての役割を考えると、単純にアプリストアの開放=善と言い切れない面があるのも事実だ。
EU、23年中に「デジタル市場法」施行へ 禁止事項をあらかじめ示す「事前規制」導入
とはいえ、世界の潮流は独占的地位にある2社への圧力強化だ。
日本は公取委の調査と並行して、政府の「デジタル市場競争会議」が法整備を検討。2022年4月にまとめたOSをめぐる競争政策上の論点(中間報告書)で、アプリストアの開放を選択肢として示している。
海外では、欧州連合(EU)が2023年中にもデジタル市場法(DMA)を施行する。禁止事項をあらかじめ示す「事前規制」の考え方に基づき、IT大手に対し、自社サービス内で同業他社を差別的に扱ったり、スマホなどに特定のアプリを事前にインストールしたりすることを禁じるほか、アプリで自社の決済システムのみの利用を強制することもできなくする。
英国の独禁当局が調査に乗り出すほか、米国のバイデン大統領も、IT大手がスマホのアプリ利用価格をつり上げているとして法整備を議会に要請したと報じられている。
日本政府は公取委の報告書や「デジタル市場競争会議」の議論も踏まえ、EUのような「事前規制」の導入を念頭に法整備の検討を進める見通しだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)