どうしたFRB? 金融不安のさなか0.25%利上げ! エコノミストが指摘...「FRBも迷っている」「景気・物価・金融...3つの使命の同時達成は不可能か」

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   米国で銀行破綻が相次ぐ中、FRB(連邦準備制度理事会)は2023年3月22日、FOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決めた。

   欧州最大級の金融グループ、クレディ・スイスの経営悪化も加わり、世界的な金融危機リスクが高まるなかでも、記録的なインフレを抑え込む決意を打ち出したかたちだ。

   同日のニューヨーク株式市場は、ダウ工業平均株価が前日より530ドルも下落。翌23日、東京市場で一気にドル売り円買いが進み、ドル円相場は一時1ドル=130円台前半にまで円高に上振れた。

   米国経済は、そして世界金融市場はどうなる? エコノミストの分析を読み解くと――。

  • ニューヨーク証券取引所
    ニューヨーク証券取引所
  • ニューヨーク証券取引所

パウエル議長「タカ派」発言、イエレン財務長官「冷淡」発言で株価急落

FRBのパウエル議長(FRB公式サイトより)
FRBのパウエル議長(FRB公式サイトより)

   米国では、FRBの急激な利上げに伴う国債価格の下落を背景に、中堅のシリコンバレー・バンク(SVB)など3行が相次いで経営破綻。地方銀行から預金を引き出す動きが加速し、金融システムへの不安が広がっている。

   市場の一部から「FRBが大幅な利上げをすると、さらに経営が悪化する銀行が増える。利上げを見送るのではないか」との観測も出ていた。

   パウエル議長は会合後の記者会見で、「利上げ停止も検討した」と率直に明かした。しかし、「利上げの決定について会合のメンバーから力強い同意があった。それはインフレと雇用情勢に関するデータが予想を上回る強さだったからだ」とインフレ退治を優先させたことを強調。

   また、「ここ2週間の出来事が家計や企業にとって信用収縮をもたらし、労働市場の需要やインフレを抑制する可能性がある。信用収縮は利上げと同じ方向に作用する」と述べた。さらに、年内に利下げを行なうとの観測が市場から出ていることについて、「想定していない」と明確に否定した。

   今回の会合でFRBは、参加者18人による政策金利の見通し(ドットチャート)を示した。

   それによると、2023年末時点の金利水準の中央値は5.125%で、前回の2022年12月の予測と同じだ。今回の利上げで政策金利は4.75%~5.0%の幅となるため、さらに0.25%の利上げが必要ということになる。

   ただし、2024年末時点の見通しは4.25%と前回の4.125%からさらに上昇している。FRBは金融不安がくすぶるなかでも、高インフレ抑制を優先する姿勢をはっきり示した。

銀行破綻連鎖を警戒するウォール街
銀行破綻連鎖を警戒するウォール街

   一方、3月22日、イエレン米財務長官が上院小委員会公聴会で証言、中小銀行の全面的な救済に否定的な発言をしたことも、株価下落に拍車をかけた。イエレン長官は「銀行預金の『全面的な』保険や保証に関することは検討も議論もしていない」と述べ、経営破綻した銀行のトップは責任を負うべきだとの見解を示した。

   これは、前日の21日、「中小規模の金融機関が経営難に陥った場合は、米政府は預金者保護のため追加措置を講じる用意がある」と語った姿勢から後退したと受け止められ、市場では金融不安への懸念が再燃した。

投資ファンドなどノンバンクがいっせいに火を噴くと...

世界金融危機のリスクが?(写真はイメージ)
世界金融危機のリスクが?(写真はイメージ)

   こうした結果をエコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン(3月23日付)「NYダウ反落、530ドル安 銀行株が下げ主導」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏が、

「FOMC後の米国市場は『株安・債券高』。株式市場では利上げ見送り期待が意外に強かったのかもしれない。信用状況への目配りがFOMC声明文とパウエルFRB議長記者会見でしっかり示されたにもかかわらず、利上げ継続への失望感やそれによる景気・企業業績の悪化懸念から、主要株価指数は下げた」

と分析。そのうえで、

「一方、米債券市場では、今回の決定は『ハト派的な利上げ』という受け止めが多いようである。FOMC参加者の金利見通し『ドットチャート』が上方シフトしなかったこともあり、利上げ打ち止めが近付いたという見方が強まるなか、米国債は大きく買われた。信用状況のタイト化がどの程度で、実体経済にどこまで影響するのかが、大きな焦点である」

と指摘した。

   同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「単なる利上げ継続に対する市場のガッカリ感なのでしょうか。違うと思います。4.5~4.75%のFF金利に音を上げだした米地銀。利上げ後の4.75~5.5%は、長短金利の逆ザヤが一段と強まることを意味します。耐えられるのでしょうか。インフレ圧力と金融システム不安の深刻なジレンマ。預金の全額保護とFRBの流動性供与で地銀の連鎖破綻はひとまず防がれていますが、逆ザヤは時間の経過とともに重圧となります」

と、利上げが米地銀の経営を圧迫していると指摘。つづけて、

「パウエル議長は会見でSVB(シリコンバレー・バンク)の経営が特にひどかったと語っていますが、問題は銀行にとどまらない。投資ファンドなどノンバンクが火を噴いたとき、『nonbank run』(取り付け騒ぎ)。どう対処するのでしょうか」

と金融危機に警戒を示した。

   ヤフーニュースコメント欄では、日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員の小山堅氏が、

「この一週間、原油相場も、金融市場の動向に左右され、大きく動いてきた。WTI(米国西テキサス産原油)は金融不安の中で、需給要因でも下押しされ、70ドルを割り込む安値となったが、昨日(3月22日)は久しぶりに70ドル台を回復した。しかし、この後も、まだまだ不安定な状況が続くだろう。市場関係者は米国の、そして世界経済の先行きを注目し、合わせて中国の動向をウォッチし続けることになる」

と、金融不安がエネルギー価格に影響を与えている現状を解説した。

「タカ派」FRBと「年内利下げ」織り込む市場との乖離が火種に

米国国旗
米国国旗

   今回、改めて示したFRBの「タカ派姿勢」と、それでも「年内利下げ」を織り込む市場との乖離(かいり)が金融不安の火種になりかねないのでは――。そう指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。

   石黒氏はリポート「FRBはタカ派姿勢堅持も市場の見通しとは乖離」(3月23日付)の中で、こう述べる。

「記者会見でパウエル議長は、FOMC参加者が年内の利下げを想定していないと述べるなど、FF金利先物が織り込む金利見通し(2023年末:4.18%、ドットチャートでは4.25%)との乖離が目立ち、今後こうした点が金融市場の火種となる可能性もあります」
「FRBが高金利政策を堅持すれば、金融機関の経営の不確実性が増すことにつながりかねないほか、今後、レバレッジドローンなど信用力の低い企業の資金調達を圧迫することも想定され、FRBの金融政策の動向には留意する必要がありそうです【図表1】」
(図表1)FF金利誘導目標上限値と米レバレッジドローン100指数(野村アセットマネジメントの作成)
(図表1)FF金利誘導目標上限値と米レバレッジドローン100指数(野村アセットマネジメントの作成)

   そして、イエレン米財務長官の発言が問題だとした。

「こうしたなか、イエレン米財務長官が22日、米国の銀行システムを安定させるために『全面的な』預金保険を提供することは検討していないと述べ、米銀行株が急落しました。金融不安を巡る投資家の警戒は依然根強いといえます。FRBは『インフレの抑制』と『金融システムの安定』という2つの難しい問題に取り組まなければならず、金融市場は当面値動きの荒い展開が続きそうです」

FRB自身も「迷っている」、メンバーの将来予想バラバラ

ドルと円(写真はイメージ)
ドルと円(写真はイメージ)

   今後の予想については「FRB自身も迷っている」と指摘するのは、大和総研ニューヨークリサーチセンター主任研究員の矢作大祐氏だ。

   矢作氏はリポート「FOMC 銀行不安の中でも利上げは継続 今後の金融引き締めは、信用収縮の程度次第」(3月23日付)の中で、今回のFOMCで参加者が示した政策金利見通し「ドットチャート」の前回(2022年12月)と今回(2023年3月)の変化図を示した【図表2】。

(図表2)FOMCメンバーのドットチャートの変化(大和総研の作成)
(図表2)FOMCメンバーのドットチャートの変化(大和総研の作成)
「ドットチャートの形状をまとめれば、2023年はややタカ派的である一方、2024年及び2025年は予想がばらついており、景気の不確実性が高いことも相まって、金融政策の見通しづらさを示しているといえよう」

   FOMCのメンバーの間でも、今後の見通しについてバラバラの意見なのだ。こうしたことから、矢作氏はこう結んでいる。

「今後の金融引き締めに関して一言でまとめれば、信用収縮の程度次第ということである。景気の下振れが緩やかであれば、5月の次回FOMCで0.25%の利上げを実施し、その後は利上げ停止となるだろう」
「景気が急激に悪化するのであれば、QT(数量的引き締め=バランスシートの縮小)及び利上げの停止はもちろんのこと、金融緩和の可能性も考えられる」
「とはいえ、金融政策を緩和的な方向へと拙速に修正してしまえば、高インフレが残存するリスクは高まる。FRBは銀行不安と高インフレの間で板挟みになっており、当面の間は金融政策を取り巻く不確実性は高いままであることが想定される」

3つの矛盾「トリレンマ」に直面、どうするFRB?

シリコンバレーの中心地、サンノゼの市街地
シリコンバレーの中心地、サンノゼの市街地

   FRBは「三重苦」の難しい袋小路に入る可能性がある、と指摘するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「FRBの利上げは5月で終了か:3つの使命のトリレンマ状態が続く金融政策運営」(3月23日付)の中で、3つの使命の間で「トリレンマ状態」に入りかねないという。

   「トリレンマ」(3つの矛盾)とは、ジャンケンでグー、チョキ、パーが同時に勝てないような「3すくみ」状態を指す。

「今までは、景気の安定と物価の安定という2つの使命の同時達成を目指す両睨みの姿勢で金融政策を決めてきたが、金融システムの安定という使命の達成の重要性もにわかに重みを増してきた。そのため、政策決定のプロセスはさらに複雑化している」
「この3つの使命の達成は互いに矛盾する面もあることから、FRBはそれら3つを同時に達成することが難しい、トリレンマに直面する可能性があるだろう」
「今までも、物価の安定のために大幅な金融引き締めを続ければ、景気が犠牲になりかねないという矛盾にFRBは直面していた。しかしFRBは、異なる時間軸を用いることで、この矛盾を回避する説明をしてきた。それは、『物価安定確保のため金融引き締めを進めれば、短期的には経済に悪影響を与えるが、物価の安定確保は中長期的な経済の安定に貢献する』というものだ」

   しかし、「金融システムの安定」には、この論法は通じない。短期的な要素が強いからだ。物価の安定確保のための金融引き締めによって経済が悪化すれば、銀行の不良債権を増加させ、銀行不安を増幅させかねない。ひとたび信頼が失われてしまえば、金融システムの安定は一瞬で崩れてしまう。

   木内氏はこう結んでいる。

「インフレ警戒を強めるFRBが、この先、金融システムの安定確保のために、経済の安定を今までよりも重視するのか、そして金融システムの不安定化に対して、柔軟かつ機動的な政策対応を行うことができるかどうかに、金融市場は不安を感じているのではないか」

   さあ、どうするFRB?(福田和郎)

姉妹サイト