ハンフリー・ホーキンス法に基づく半年に一度の議会証言において、パウエルFRB議長は0.25%に減速した利上げ幅を、再度0.5%に引き上げる可能性を示唆しました。インフレに対して、引き締め幅が足りないと判断したからです。
しかし、そうした中、テック系スタートアップ企業との取引が多い、全米16位の中堅銀行であるSVB(シリコンバレー銀行)は猛烈な資金引き出しに襲われ、3月10日にFDIC(米連邦預金保険公社)管理下に置かれました。
リーマン・ショックを二度と起こさぬよう、金融規制は強化されました。銀行は厳しい監督化に置かれたはずです。それなのに、銀行破綻はなぜ起こったのか。
かつてないパターンだったSVBの破綻
SVBは、ある意味、特殊な銀行でした。大口預金者の割合が突出して多く、個人の預金はわずかでした。預金保険でカバーされる口座が少ないということは、瞬時に多額の預金流出にさらされやすいと言えます。また、ポートフォリオの運用に関しては、多額の米国債および政府系モーゲージ債(MBS)を保有し、FRBによる急速な利上げに含み損を抱えていました。預金の払い戻しに当てる資産が乏しく、米国債売却でしのごうとしましたが、売却損の確定を余儀なくされ、増資計画は頓挫し、急激な預金流出に間に合いませんでした。
しかし、SVBの破綻には違和感があります。問題のある金融商品に投資したわけでもなく、問題企業の融資で巨額の不良債権を抱えていたわけでもありません。米国債という超優良資産をアセットとして持ちながら、ALM(Asset Liability Management、資産・負債の管理)のミスマッチによって破綻という、かつてないパターンだからです。また、その部分を銀行検査で当局がどうして指導しなかったのかも不思議です。そこには、やはり油断があったのでしょうか。
SVB破綻は思わぬところにも飛び火し、クレディ・スイスのCDSが10%まで急騰、株価も2ドルを割り込み、破綻を織り込む状況となりました。スイス当局は500億スイスフランのクレジットサポートを用意しました。声明文の中で、「米銀破綻とクレディ・スイスは全く無関係」と言明しましたが、市場の疑いは消えず、結果的に3月20日クレディ・スイスは、スイスの金融大手UBSに吸収合併されることになりました。
米国経済、「ノーランディング」は吹き飛ぶ事態に
金融危機が発生すると、なかなか不安の連鎖は止まりません。クレディ・スイスがUBSに吸収される際、株価は2スイスフラン前後で取引されていましたが、結果的に0.76スイスフランとなり、株主の利益は大きく毀損しました。しかし、交渉の最初の段階では、UBSは0.25スイスフランを提示していました。
しかも、スイス政府は一部債券に関して、投資家の負担を求めました。AT1債160スイスフランの価値はゼロとなりました。いわゆるCOCO債(偶発転換社債)です。この影響は大きいでしょう。
リーマン・ショック以降、ボルカールールを制定し、銀行が危機に際しても二度と倒れないようにしてきましたが、今ここに潰れることになりました。米国は、さらに強固な規制を求めてくるでしょう。5月1日までに、新しい規制を決める予定です。
推測になりますが、おそらく自今資本比率等を今よりも高めるでしょう。銀行検査も同時に入ります。新規の融資を進めるような状況にはならないでしょう。つまり、信用の伸びが鈍化します。これはGDPにネガティブなインパクトを与え、景気後退が現実的な問題となってきます。
景気があまりにも強いので、ハードランディングでも、ソフトランディングでもなく、ノーランディングと言っていたのですが、これも吹き飛びました。CMEが示すFFレートを見ると、次3月の利上げが最後となり、今後は来年向けてFOMCは毎回のように利下げする局面が予想されています。来年7月には3%です。
こうした状況では、やはり円高に進まざるを得ないでしょう。これまでドル高円安を想定してきましたが、リスクオフが進む展開となり、ある程度の円の揺り戻しを想定したほうが良いと思います。(志摩力男)