「未来の『apollostation(アポロステーション)』は、地域の人と暮らしをサポートする『生活支援基地』でありたいと考えています」
こう話すのは、出光興産販売部リテール政策課の八宮あかね(やみや・あかね)さんだ。いま、出光興産のサービスステーション(ガソリンスタンド)「apollostation」は、変わろうとしている。思い描くのは「地域の暮らし」を支える欠かせない拠点として、より存在感を発揮することだ。
そこで、全国に広がるサービスステーションというインフラ拠点を生かして、地域の社会課題の解決に取り組む「スマートよろずや」構想を掲げ、全社的な活動を加速させている。
従来のように、ガソリンや軽油の給油、カーケアサービスを提供するだけではない。未来の「apollostation」は、既成概念にとらわれず、「生活の支援基地」として、多様なエネルギーやモビリティに加えて、地域の困りごとを解決するさまざまなサービスを提供したいと考えている。
こうした変革に出光興産はなぜいま、力を注ぐのか。そして、どんな思いや夢があり、わくわくする未来を考えているのか――。「スマートよろずや」のコミュニケーション・プロジェクトで手腕を発揮する、八宮あかねさんに話を聞いた。
出光興産 販売部リテール政策課 八宮あかねさん
高齢化社会、過疎化、地域創生など...地域が抱える課題解決を目指す
――まずは、エネルギー事業やサービスステーションを取り巻く環境について教えてください。
八宮あかねさん「エネルギーを取り巻く事業環境は近年、様変わりしました。カーボンニュートラル(低炭素)社会の実現に向けた、再生可能エネルギーの利用拡大や、脱炭素をもたらす技術革新の進行...これらは、みなさんご存じのことと思います。
一方で、ガソリンや軽油などを供給する全国のサービスステーションは、減少傾向にあります。この状況が続くと、エネルギーの安定供給ができない地域が出きてしまうかもしれません。
ですが、エネルギー事業者として私たちには、人々の暮らしを支える責任があります。将来にわたって、エネルギーを安定供給する使命を果たすには、今後もサービスステーションをインフラ拠点として維持していかなくてはなりません。それを踏まえて、提供する商品、サービスの変革にも取り組んでいく必要があると考えているんです」
――出光興産のサービスステーション「apollostation」はいま、「スマートよろずや」構想を掲げ、変わろうとしています。どのようなものでしょうか。
八宮さん「一般的にサービスステーションは、人々の生活に便利な場所に建設されているんですね。人が集まりやすい場所、と言えるでしょうか。出光興産は、全国約6200か所の系列サービスステーションを擁しています(※2023年末をめどに『apollostation』ブランドに一本化する)。
こうした全国の『apollostation』をうまく活用したら、地域が抱える課題解決――つまり、高齢化や過疎化といった社会問題の解決や、地域創生などに貢献できる拠点となれるのではないか、と。そんな思いのもと、取り組んでいるのが『スマートよろずや』構想なんです。
未来の『apollostation』は、地域の人と豊かな暮らしをサポートする『生活支援基地』でありたい、と考えています。
この『スマートよろずや』構想は、2022年11月発表の中期経営計画のなかで、2050年に向けて、注力する3つの事業領域のひとつとしています」
3分野の価値提案へ...「エネルギーよろずや」、「モビリティよろずや」、「コミュニティよろずや」 お客様のニーズに合わせ、「よろずに変化していく」
――「スマートよろずや」構想のもと、具体的に「apollostation」はどんなふうに進化していくのでしょうか。また、実際に進み始めている事例はありますか。
八宮さん「『よろず』とは『無限』や『多様』を意味します。『よろず屋さん』といえば、昔は、生活に必要なさまざまなものを扱う『なんでも屋さん』でしたよね。その言葉と『スマート』を合わせたのは、デジタルの力も駆使して、『よろず』なサービスをつなげてお客様にワンストップで提供したい、という思いからです。
そして、『スマートよろずや』構想を通じてお客様に提供したい価値は、大きく3つの分野があります。いずれも、『地域の暮らしを支える』というキーワードに当てはまるものです」
――詳しく教えてください。
八宮さん「1つ目は、地球にやさしい多様なエネルギーの提供ですね。既存のガソリン、軽油のみならず、将来的には電気自動車(EV)用の充電サービス、バイオ燃料、分散型エネルギー、さらには水素などの供給も視野に入れています。名付けて『エネルギーよろずや』です」
スマートエコステーション南国バイパス
八宮さん「たとえば、2022年11月に開所した南国バイパス(高知県南国市)のサービスステーションでは、急速充電器によるEV充電サービスを提供しています。こちらは、環境配慮型のサービスステーション『apollostation Type Green』第1号店。国産木材使用のCLT(直交集成材)を活用して建設しておりまして、国内の林業活性化にも貢献します。新規・リニューアル問わず、2025年までに30か所程度まで増やしていく計画です」
――2つ目、3つ目についてはいかがですか?
八宮さん「2つ目は、モビリティ分野での価値提供を目指す『モビリティよろずや』。たとえば、ユーザーニーズの高い車検やコーティングなどのサービスを、デジタルを使って、利便性を高めて提供していきます。また、超小型EVを現在開発中で、多様化する車の持ち方・乗り方としてサブスクやシェアリングなどのサービスも検討しています。
超小型EVは、従来の軽自動車よりも小さく、小回りが利くため、主なターゲットは、運転に不安を抱える高齢者。また、潜在的なニーズがありそうなのが、近隣営業を行うビジネスパーソン。普段あまり運転しない方にもおススメしたいです。雨の日の買い物、子育て・介護世代には家族の送迎にも、お使いいただけたらと思います」
開発中の新型車両
八宮さん「3つ目は、地域のコミュニティサポートです。『コミュニティよろずや』と呼んでいます。
この分野では、食や健康に関する商材やサービスの提供を検討しています。たとえば、脳ドック事業を手掛けるベンチャー企業との協働で『スマート脳ドック』をサービスステーションで実施しました。MRI搭載車は大きくて重いため、長時間駐車させるには、頑丈なつくりのサービスステーションはぴったりなんです。今後も各地の特販店と協力しながら、地域のニーズを探っていきます」
スマート脳ドックは、予約と問診入力、結果確認はウェブでできるので、検査当日は受付からお帰りまで30分
――実証実験を含め、さまざまな取り組みが進んでいるのですね。さらに、「スマートよろずや」は今後、どんな存在でありたいか、思い描いていることは?
八宮さん「いままさに、部門横断のメンバーが集まるワークショップなどを通じて『私たちの強みを生かして、お客様にどういう価値や体験を提供できるか』というテーマで議論を重ねています。
固まってきたのは、出光興産らしさがあり、お客様に提供したい軸となる価値として、『人』と『サービスステーション』に重きを置くことです。
とくに、『人』を大事にする姿勢は、出光興産の企業理念『真に働く』にもあるように、全社員が共有する価値観。社風として、社会的意義のある仕事をしたい、と考える社員が少なくありません。そもそも『スマートよろずや』を通じて、『地域の暮らしを支えたい』と考えているのも、そんな思いの現れです。
今後どんなサービスを手掛けるにしても、『人の役に立ちたい、支えたい』という考えが前提になるでしょう」
――『人』と『サービスステーション』に価値観(コア・バリュー)を置き、その先にある個別のサービスは、さまざまな発想で自由に考えて提案していきたいと考えているのですね。
最後に、2050年に向けて、未来の「apollostation」の展望を教えてください。
八宮さん「『apollostation』は『生活支援基地』でありたいので、子どものころ秘密基地にわくわくしたように、便利で、毎日行ってみたい――そんな場所になるといいなと思います。
たとえば、自動車を運転しなくても、いろんなサービスを受けられる場所になれたら――そんな夢も描いています。あくまで可能性ですが、コインランドリーや食品のピックアップステーションなどのサービスが集まる拠点となり得るかもしれません。
それがきっかけとなり、『apollostation』に来てみたら、超小型EVが気になったからカーシェアについて知りたい、太陽光発電にも詳しいようだから話を聞きたいというお客様と、新たな接点が生まれたらうれしいです。
その時、専門知識を持つスタッフが詳しい説明やよりよい提案をしたり、場合によってはサービスをご自宅までお届けしたりすることで、地域のみなさんの豊かな暮らしに貢献できるのではないかと考えています。サービスの展開には無限の可能性があり、お客様とともに『よろずに変化していく』こともまた、ポイントになりそうです」
――ありがとうございました。
【企業プロフィール】
出光興産
https://www.idemitsu.com/jp/
出光興産では現在、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「資源」「電力・再生可能エネルギー」の5つの事業領域を展開しているが、2050年のビジョンに「変革をカタチに」を掲げ、「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」の3つへの再編を示し、社会実装を進めている。同時に、「人々の暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすことを挙げる。代表取締役社長は、木藤俊一氏。