年度末に差し掛かり、異動の辞令を受け取っているビジネスパーソンも少なくないことだろう。最近では転勤のない地域限定職などの職種も増えているが、転勤者の意向を踏まえた異動辞令は行われているのだろうか?
そんな疑問に、アート引越センター(大阪府大阪市)のシンクタンクである「0123引越文化研究所」がおこなった「社員の転勤にかかわる総務・人事担当者に聞いた転勤実態アンケート2023」の結果は参考になるかもしれない。2023年1月27日の発表だ。
これをみてみると、赴任手当の平均支給額は、単身世帯で約9.3万円、家族世帯は約13.1万円となる結果で、1999年と比較すると減少しているという。
また、転勤者からの総務・人事部門への相談内容は「転勤先の住居問題」、「赴任先の仕事内容」、「職場環境」の順に多いようだ。
年間の人事異動の頻度は減少傾向
この調査は東京、大阪、名古屋、福岡に本社または支店、営業所をもつ、従業員数300人以上の会社の人事・総務担当者322人が対象のインターネットアンケート。調査期間は2022年12月28日から2023年1月4日までだという。
まず、「あなたの会社では人事異動をどのように実施するか教えてください」をみてみると、年間の人事異動の実施回数は、「毎年2回実施」(29.2%)で最も多くなった。
次いで、同率で「毎年1回実施」と「毎年3回以上実施」(共に23.0%)の順となり、1999年発表の同調査と比較すると、「毎年3回以上実施」が23.4ポイントも減少しており、年間の人事異動の頻度は減少傾向であることがわかった。
続いて人事異動の時期をみると、「4月」が「68%」で最多に。次に「10月」(36.3%)、「3月」(19.3%)のように並んでいる。こちらは、1999年調査と比較しても、4月と10月の人事異動が突出して多い傾向には大きな変化はないようだ。
一方で、赴任手当支給額はいくらなのか? この質問には、単身世帯で「5万円未満」が「38.7%」で、「5万円から10万円未満」が「26.5%」と合わせると、10万円未満が全体の「65.2%」を占めることがわかった。赴任手当が10万円未満の割合は、1999年調査と比べると「12.3%」の増加となった(単身世帯:2023年 n=230/1999年 n=191)。
また、家族世帯の赴任手当支給額は「5万円未満」が「29.4%」、「5万円から10万円未満」が「28.4%」で合わせて過半数を占める結果になった。
さらに、家族世帯における支給額「20万円以上」は「22.9%」で1999年調査から24.6ポイント下がる結果になった(家族世帯:2023年 n=218/1999年 n=160)。
次に、引っ越し費用のデータをみてみよう。これによると、単身引越には「70.2%」の担当者が支給していると回答。平均額は11万4000円。一方、家族引越には「69.3%」の担当者が支給していると回答しており、平均額は17万3000円となったという。
1999年発表の調査によると、単身引越費用平均額は約16万9000円で、家族引っ越し費用平均額は41万3000円なので、企業側からしてみれば、会社都合での引越への支援の負担は大きくなっている(単身世帯:2023年 n=226/1999年 n=258 家族世帯:2023年 n=223/1999年 n=254)。
同社では
「赴任手当は、単身世帯に71.4%の担当者が支給していると回答、その平均額は約9.3万円。家族世帯への手当は67.7%が支給していると回答しており、その平均額は約13.1万円。なおどちらの平均額も、1999年発表の調査時の平均額よりも金額が下がっています」
とコメントしている。
本当は行きたくない? 新天地で力試す? 転勤へのポジティブな意識が向上
今度は転勤者の意識についてみてみよう。
「転勤者を選ぶ際に、どれくらい本人の希望や意思を反映していますか?」の質問では、多くを占めたのが「どちらかといえば会社の都合を優先」が「38.2%」となった。次いで、「本人の希望・意思をどちらかといえば反映」が「31.4%」、「本人の希望・意思をかなり反映」が「13.4%」、「かなり会社の都合を優先」が「12.1%」という順番になった。
この結果に対して同社では、次のように指摘している。
「転勤者を選定する際にどの程度本人の希望や意思を反映させるかという点では、『本人の希望や意思をかなり反映している』・『どちらかといえば反映している』と答えた人は計44.8%となりました。
1999年の同調査では計22.6%だったため、およそ倍に増加しており、以前よりも本人の希望や意思を尊重する傾向が見て取れました。
また、会社都合を優先と答えた人の割合は1999年に比べて計23.7ポイントも減少していました」
一方、転勤に伴う社員からの相談にはどんな内容があるのか。これについて聞くと、「転勤先の住居問題」(48.7%)が最も多く、次いで「仕事内容」(46.1%)、「職場環境」(44.0%)の順となっている。
1999年に発表との比較では、「転勤先の住居問題」(75.1%)、「引っ越しの問題」(63.9%)、「転勤形態」(44.2%)がトップスリーを占め、相談内容の全体をみても傾向に変化がみられる。
これらの調査結果を受けて同社では、
▽転勤者を選定する際に「本人の希望や意思を反映している」と計44.8%の担当者が回答。
▽転勤者からの相談事があると72.0%の担当者が回答。相談内容としては「転勤先の住居問題」、「仕事内容」、「職場環境」の順で多く、1999年発表の同質問の回答とはやや異なる傾向に。
▽「転勤をきっかけに退職した社員がいた」と回答した担当者が56.8%。 また「転勤制度の有無は自社の採用活動に影響がある」と51.5%が感じていると回答。
とまとめている。
なお、「転勤実態アンケート2023」は東京、大阪、名古屋、福岡に本社または支店、営業所を持つ、従業員300人以上の企業において社員の転勤に関わる業務に従事する総務・人事担当者322人が対象。期間は2022年12月28日から2023年1月4日まで調べた。
また、1999年の転勤実態アンケートは東京、大阪、名古屋、福岡に本社または支店、営業所を持つ企業381社の担当者を対象に、1998年5月16日から6月22日までおこなった。