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仮設機材×現代アートの意外なコラボのなぜ...どんなもの?/杉孝・担当者インタビュー

   みなさんはビルの現場や住宅の現場でよく見かける鉄パイプで組みあがった足場について、どれくらい知っているだろうか?

   この春、京都で行われた「ARTIST'FAIR KYOTO 2023」で2023年3月4日から3月12日にかけて、仮設足場レンタルの「杉孝」(神奈川県横浜市)、専門工事業の「北梅組」(大阪府大阪市)、現代アーティストのR E M Aさん、造形物制作の「FES」(京都府左京区)がコラボした現代アート作品が展示された。

   R E M Aさんの顔を模した砂像と仮設足場を使った空間表現と神殿のような柱は、観覧者に驚きをもって受け入れられた。

   足場をレンタルする会社「杉孝」が、なぜ現代アートとコラボレーションすることになったのか。そのねらいと今後の展望について、仮設機材レンタル業界でトップクラスのシェアを誇る杉孝の福家早知子(ふけ・さちこ)さんに聞いた。

  • 仮設機材について説明する福家さん
    仮設機材について説明する福家さん
  • 仮設機材について説明する福家さん
  • (c)フィール・コミュニケーションズ
  • (c)フィール・コミュニケーションズ

「足場は職人の命を乗せている」―安全第一の杉孝の仕事とは?

土台に使用された単管と四角支柱 (c)フィール・コミュニケーションズ
土台に使用された単管と四角支柱 (c)フィール・コミュニケーションズ

――はじめに、仮設機材レンタル業界はどんな業界なのか教えていただけますか?

福家早知子さん 仮設機材レンタル業は、メーカーから足場の機材などを調達して建設現場に貸し出す仕事をしています。建設業に付帯している業界で、都市部においては高度経済成長以降に建てられた社会インフラや石油プラント、火力プラントなどの改修などの需要が続いていくことが見込まれていて、建設業に追随する形で仮設機材レンタル業も需要が見込まれる状況にあります。
しかし、2022年の機材の調達では、鋼材価格やプレート価格、運賃の高騰によって機材の価格が上昇傾向にあります。また、改修や新築で旺盛な需要のある一方、少子高齢化に伴った人材の不足、職人の高齢化などは建設業界全体の課題です。

――杉孝ならではの特色を教えてください。

福家さん 弊社の社長(杉山信夫氏)は、仮設は工事の最後には解体されてなくなってしまうものであって、いわば「黒子のような存在」とよく話しています。建築物の工事をする人を支え、フォローしていくことが弊社にとって一番大切であり、「お客様第一」を常に考えています。たとえば、建築工事で使用する鋼材「単管」はコンクリート打設の際に使われますが、次第にセメントなどで汚れてしまうものです。でも、弊社ではできるだけ綺麗にクリーニングするよう心掛けています。

――「お客様第一」で考えられているのですね。

福家さん また、杉孝の特長として、「足場安全コンサルティング」という現場の足場の安全性をチェックする活動を行ったり、VRを使った危険察知体験を行うなど、お客様の安全サポートに特に力を入れています。
社長の言葉ですが、「足場は職人の命を乗せている」という理念のもと、機材の品質管理を徹底し、お客様からは良い反響をいただいています。たとえば、事故のもとにならないよう、足場のくさびの可動をチェックしたり、単管の小口の亀裂などがあったりしないように細かいところまでしっかりメンテナンスをして出荷しています。

建築資材で現代アート!? アートコラボで見つかった製品の可能性

アーティストのR E M Aさんと作品の砂像 (c)フィール・コミュニケーションズ
アーティストのR E M Aさんと作品の砂像 (c)フィール・コミュニケーションズ

――今回のコラボレーションの経緯とねらいについて教えてください。

福家さん アーティストのR E M Aさんが北梅組様に建築素材を使ったアート作品の制作について打診したことがきっかけだと聞いています。弊社と北梅組様はさまざまな工事で協働しています。そのため、工事現場で使う支柱やブレス、荷上げを支援する「荷受けフォーム」など、北梅組様にも弊社の多彩なラインナップについてご理解いただいています

――そのような事情があったのですね。

福家さん そうしたなか、R E M Aさんがアート作品のアイデアを練り上げるときに、柱を6本立てて、神殿のような空間を作りたいというアイデアがあり、2022年の夏ごろに弊社にお声がかかり、協力させていただきました。
アートコラボとしては弊社にとって初めての試みであり、足場をアートに使うという発想はなかったため、普段は足場にふれることのない生活者のみなさんにすこしでも存在を伝えることができるのではないか、というねらいがあってコラボレーションが進みました。

――コラボにおける杉孝の役割とどんな成果があったか教えてください。

福家さん 私たちは足場をレンタルすることはできますが、足場を組むことはできません。なので、アイデアがあっても、クリエイトはできません。R E M Aさんに今回の作品でアートの一つとして命を吹き込んでいただけたことは、アートになる喜びを感じられて、社員一同喜んでいます。
たとえば、コラボでは、足場部分の設計と仮設機材の提案をさせていただきました。作品の周りの柱の中には、建設現場などで使用する「四角支柱」という支保工材を入れ、重厚感を持たせて強度を補強しました。
ステージ下部には、「アルバトロス」という建築などの外部足場で用いる、弊社主力の足場材を使いました。今回の使用に当たっては非常に自由度が高い、とお褒めの言葉を頂戴しました。
営業や設計部門など社内で連携して、初めての取り組みに挑戦できました。若い設計社員などは「通常業務と違った仕事にかかわらせてもらい、新鮮な気持ちで楽しんで取り組むことができた」などの声が上がっています。
福家さん 作品を見た関係者は、普段の足場では見たことがない組み方をしている点をあげながら、ダイナミックな表現に新鮮な驚きを感じていました。
また、R E M Aさんも「仮設機材の機能的な美しさを表現できたうえ、足場のフレキシブルで使い勝手の良さに魅力を感じた」と感想を話してくれるなど、弊社としても初めての気づきを得ることができました。

ニッチな業界をもっと知ってほしい―杉孝の願い

杉孝の福家さんにお話を聞いた
杉孝の福家さんにお話を聞いた

――業界の展望と杉孝の描いている未来を教えてください。

福家さん 2024年に施工される働き方改革の法律によって、建設業界の人手不足は輪をかけて深刻になることが予想されています。そこで弊社としては、今回の作品の設計にもBIM(Building Information Modeling:ビルディング インフォメーション モデリング)の技術をつかい、建設DXを推進することで、業界の人材不足をサポートしていきたいですね。
具体的には、仮設の設計にBIMを導入することで、3Dモデルのビル躯体に対して仮設の割付をシミュレーションでき、構造物と仮設の干渉や足場の過不足を事前に知ることができます。
とび職や現場の調達担当、現場代理人と情報共有を行うことで、安全な足場の組み方を視覚的に確認し、誰もが知識や経験に頼らずに、足場を組むことができます。こうしたDX化を推進し、業界の人手不足の解決に寄与していきたいと思います。
また、今回の新しい挑戦によって、仮設機材の新たなる可能性を確認することができたので、これからも様々なコラボレーションに協力していきたいです。