日銀が買い上げた大量の国債やETF、「負の遺産だとも思っておりません」
決定会合終了後、黒田氏は記者会見に臨んだ。そこからは、かつてのような覇気は感じられなかった。記者から大規模緩和の副作用など厳しい質問が相次いだが、黒田氏は淡々とした口調で自己弁護を繰り返した。
「緩和政策は成功だったのか」との問いには、雇用や賃金の改善を挙げ、「金融緩和というのは成功だった」。
副作用の拡大については「副作用の面よりも、金融緩和の経済に対するプラスの効果がはるかに大きかった」。
2013年4月の決定会合終了後の記者会見で宣言した「2%の物価安定目標を2年で達成」する約束が実現できなかったことについては「残念」とだけ語った。「長きにわたるデフレのもとで定着した考え方、慣行がかなり根強くあったことは予想した以上だった」と釈明した。
植田次期総裁の政策を縛るような発言もあった。大規模緩和からの「出口」に関する戦略を問われた時のことだ。
「新しい総裁、副総裁のもとで適切な出口(の議論)をされると思っている」とする一方で、現時点では「出口について云々するというのは、時期尚早だ」と断言。当面、大規模な金融緩和を続けるべきだと強調した。
黒田氏の記者会見の内容について、ある日銀関係者はこう解説する。
「黒田さんには金融緩和路線を貫いた10年間の実績に対する自信とプライドがある。どんなに副作用が広がっていても、それを認めたくなかったのだろう」
記者会見で、黒田氏が唯一、声を荒らげる場面があった。日銀が金融緩和で買い上げた大量の国債や、ETF(上場投資信託)が歴史的な規模にまで積み上がり、「負の遺産」として植田体制に引き継がれることに「反省はないのか」と問われた時だ。
「何の反省もないし、負の遺産だとも思っておりません」――黒田氏は不機嫌そうに短く言った。
時に笑顔を交え、余裕のある様子を演出していた黒田氏が見せた一瞬の「隙」だったのか。大規模緩和を「やりっぱなし」で日銀を去る後ろめたい思いが顔を見せた瞬間だったのかもしれない。(ジャーナリスト 白井俊郎)