流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)が、ついに「祖業」にも手を付けた。
グループのもともとの中心だった傘下のイトーヨーカ堂が運営する総合スーパー「イトーヨーカドー」の国内店舗を2026年2月末までに2割超削減し、併せて衣料品から完全撤退するというのだ。
好調なコンビニ事業に経営資源を一段とシフトするものだが、では、総合スーパーに完全に見切りをつけるかというと、そうでもない。どんな考えがあるのだろうか。
ヨーカドーの店舗数、10年間でほぼ半減 源流は1920年開業の洋品店「羊華堂」
セブン&アイHDは2023年3月9日、「中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価の結果について」を発表した。
それによると、イトーヨーカドーの店舗を今後3年間で、これまでの計画に14店上積みして32店減らすことが柱。閉店する店名は明らかにしなかったが店舗を首都圏に集中させるとし、それ以外の地域が主な対象となる見込みだ。
3月9日時点で125店ある店舗数は2026年2月末までに93店になり、2016年2月末の182店から10年間でほぼ半減することになる。
併せて、衣料品からも撤退。自社で紳士、婦人、子供服売り場を運営するのを止める。ヨーカドーは1920年に東京・浅草に開業した洋品店「羊華堂」が源流で、まさに「祖業」を「切った」かたちだ。
セブン&アイHDの井阪隆一社長は計画について、発表会見で「国内外コンビニ事業の成長戦略にフォーカスする」と述べ、グループの収益力の柱であるセブン-イレブンに投資を集中する方針を改めて明確にした。
創業家出身・伊藤順朗氏が昇格...スーパー事業、引き続き重視の姿勢 米投資ファンドが主張する「コンビニ分離」に対抗?
ヨーカドーについて、セブン&アイHDはこれまでも不採算店の閉鎖など収益改善を図ってきた。だが、2022年2月期まで2期連続の最終赤字と、不振を脱せられでいない。
「物言う株主」として知られる米ファンド「バリューアクト・キャピタル」(セブン&アイHD株の4.4%を保有)はコンビニ事業の分離・独立を求めていた。
1月にも「100%のスピンオフを通じたセブン-イレブンの資本再構築は、現状維持に比べてセブン&アイHDの株主価値を向こう10年で80%高めると見積もっている」として、改めてセブン&アイHD株主に分離・独立案への支持を訴えたばかり。
「コンビニ分離」といっても、実質的にはコンビニだけ残し、最終的にはスーパーなどは売り払う構想だ。
今回のセブン&アイHDの発表は、バリューアクトへの回答でもあり、コンビニ完全分離を拒否したものだ。この発表と同時に4月1日付の幹部人事を公表したが、その中で注目されたのが創業家出身の伊藤順朗取締役常務執行役員の代表取締役専務執行役員への昇格だ。
伊藤氏は発表翌日の3月10日に亡くなった創業者の伊藤雅俊氏(セブン&アイHD名誉会長)の二男だ。代表取締役としてスーパー事業全体の管理に当たるとしており、スーパーを引き続き重視する姿勢を示した人事と受け止められている。
セブン&アイHDの決算を見ると、売上高に当たる営業収益の8割をコンビニ(その9割が海外)が占め、営業利益では9割以上を稼ぎ出す(23年2月期予想)。
スーパーは営業収益では12%を占めるが、利益はほとんど貢献していない。営業収益の4%だけ、利益はほぼゼロの百貨店事業(西武そごう)は22年10月に売却を発表済みで、風当たりは強まるばかりに見えるスーパーだが、商品開発・展開のうえで不可欠という。
スーパー事業のうち「食品」強化へ 新コンセプト店舗「SIPストア」も、成長に寄与できるか?
今回、衣料品からの撤退を打ち出したことで、スーパー事業の中では食品に経営資源を集中することになる。
食品でポイントになるのが、PB商品「セブンプレミアム」だ。コンビニの食品売上高の約4分の1を占め、他のコンビニに対し優位に立つ力の源泉でもある。
その開発は、豊富な品ぞろえで消費者ニーズを把握するなど、幅広い顧客を持つスーパーのノウハウやインフラが欠かせないという。この点、百貨店は、シナジー(相乗効果)が期待できないから売却対象になったというのが、業界関係者の見立てだ。
今回発表した「中期経営計画のアップデート」でも、「『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」という将来像を掲げた。
コンビニとスーパーの関係で言うと、すでに「SIP」(セブン―イレブン・イトーヨーカドー・パートナーシップ)を打ち出し、これまでハロウィーン、イチゴ、中華と計3回の合同フェアを開催し、連携強化を図っている。
今後はさらに、コンビニとスーパーを組み合わせた新しいコンセプトの店舗「SIPストア」も展開予定だ。SIPストアは、店舗面積、取扱商品数でコンビニの2~3倍程度とされる。ただ、SIPストアは、ライバルのイオングループの「まいばすけっと」と競合することになり、簡単な戦いではない。
こうした取り組みでいかにシナジーを発揮していくかが、セブン&アイHDのスーパー事業の将来を左右する。(ジャーナリスト 済田経夫)