日本中を興奮と感動に包んでいるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。一躍ヒーローに躍り出たのが、日系選手としては初の侍ジャパン入りを果たしたラーズ・ヌートバー選手です。
闘士あふれるスーパープレーでスタンドを沸かす一方で、地元カージナルスから持ち込んだ「ペッパーミル・パフォーマンス」が話題になっています。この活躍を、米メディアも「ヌートバーがWBCの主役だ!」と大絶賛。1年前は無名選手だったヌートバー選手ですが、数か月前から「開花」を予測していた専門家もいたようです。
「努力は報われた!」 コロナ禍では「肉体労働」のバイトも
WBCが始まるまで、ヌートバー選手のことをどれほどの人が知っていたでしょうか? 初の日系選手として第5回WBC日本代表のメンバー入りを果たしたヌートバー選手は、米大リーグのセントルイス・カージナルスに所属する外野手で、アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれました。
2022年にメジャーデビューする前はマイナーリーグでプレーしていましたが、コロナ禍でマイナーリーグの試合が中止になった時は、航空会社で「a manual labor job」(肉体労働)のアルバイトをしていた「苦労人」だそうです。
米国の専門家は、メジャーデビュー前のつらい経験があったからこそ、ヌートバー選手が「keep working and to stay grounded」(常に努力を続けて、地に足がついた)選手に成長したと分析していました。
そんな「苦労人」ヌートバー選手の活躍を、各国メディアが興奮気味に伝えています。
Lars Nootbaar became a sensation for Japan in WBC
(ラーズ・ヌートバー選手が、日本のWBCで時の人になった:米CBSテレビ)
sensation : 時の人、花形
Lars Nootbaar brings 'grind-it-out spirit' to Japan and WBC
(ラーズ・ヌートバー選手が、「やり抜く」精神を日本とWBCにもたらした:AP通信)
grind it out:やりたくない仕事をやりぬく
「grind-it-out spirt」は、ヌートバー選手の「ペッパーミル・パフォーマンス」のことを指しています。「grind」の語源は臼で挽くという意味で、「身を粉にして働く」「やりたくない仕事をやる」といった文脈で使われます。
ポイントは、やりたくない仕事をイヤイヤするのではなく、「目標に向けて努力し続ける」という、前向きなニュアンスを含んでいるということ。まさに、ハッスルプレーを連発しているヌートバー選手にピッタリの表現ではないでしょうか。
ヌートバー選手が所属するカージナルスは、他球団と比べて、派手なパフォーマンスよりも守備や走塁といった地味なプレーを強調する傾向があるそうです。「つらく地味な仕事でも、続けていれば勝利につながる」という精神を、世界中に「輸出した」ヌートバー選手。勝ち負けだけでは測れない、スポーツが持つ力を体現して、ファンの心をわしづかみにしています。
米専門家「2023年のブレイク選手、ヌートバー選手がイチオシ」と予測
WBCでは、すっかり時の人となったヌートバー選手ですが、所属するカージナルスでは熾烈なレギュラー争いが待ち受けている様子。
ヌートバー選手の他にも優れた外野手が数人いて、起用についてオリバー・マーモル監督が「他のどの年よりも、今年は厳しい競争になりそうだ」と、うれしい悲鳴を上げていると報じられています。
そんななか、複数のメディアが「2023年はヌートバー選手がブレイクする」という、専門家のコメントを紹介していました。
Nootbaar could be poised for breakout 2023
(ヌートバー選手は、2023年にブレイクする準備ができている:AP通信)
St. Louis Cardinals player Lars Nootbaar is a hot pick to have a breakout year
(セントルイス・カージナルスのラーズ・ヌートバー選手は、今年ブレイクするイチオシだ:米メディア)
今回、ヌートバー選手を取り上げた過去の報道も調べましたが、なかには、まるでWBCでの活躍を予測していたような記事もあって、驚きました。
ある専門家は、「no-name prospect」(無名の見習い選手)から「one of the rising stars」(希望の星の一人)に上りつめたヌートバー選手ですが、残念ながら、まだ一流選手とは言いがたいとのこと。それでも、「ファンやメディアの注目を集めてプレッシャーを感じると、一気に花開くだろう」と宣言していたのです。
さらに、共通しているのが、ヌートバー選手の天真爛漫さや人懐っこさを評価する声です。メジャーデビューしたばかりの25歳の新人選手ながら、ベンチではベテラン選手にすっかり溶け込み、番記者たちにも「ビッグスマイル」で接する姿が、好感をもって受け止められていました。
コツコツと努力を惜しまずに、いつも笑顔でチームメートを鼓舞するヌートバー選手。WBCはもちろん、大リーグでも1試合でも多く出場して、世界中の子どもたちに希望と笑顔を届けてほしいと思います。
それでは、「今週のニュースな英語」は「ペッパーミル・パフォーマンス」を表す表現から、「grind」を使った文例をご紹介します。
It's time to get back to the grind!
(退屈な仕事に戻る時間だよ)
Go through the daily grind
(決まり切った仕事をやり遂げよう)
Hanako ground away at her English
(花子は英語を集中して勉強した)
全力でバットを振り、笑顔でグランドを駆け回るヌートバー選手の姿から、心から野球を楽しんでいる喜びが伝わってきます。小さなことをコツコツと継続する努力。WBCが終わっても、「ペッパーミル精神」は人々の心に残り続けることでしょう。(井津川倫子)