「大きすぎて潰せない」悩ましさ、欧州発「銀行危機」の始まり...
実は、経営上の問題は米国の銀行より欧州の銀行のほうが大きいと指摘するのは野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏はリポート「スイス中銀がクレディ・スイスに流動性供給の準備と表明:米国から欧州に飛び火する銀行不安:本丸は欧州か」(3月16日付)のなかで、クレディ・スイスの経営不安は個社の問題ではないと強調する。
「欧州の銀行は、リーマンショック後の不振がなお続いている、とも言えるのではないか。実際、収益性、金融市場からの評価などの点で、米国の大手銀行に大きく劣後している」
「また、ユニバーサル・バンキング制度の下、このような商業銀行部門の不振と、金融市場の動揺による引き受け業務の低迷など投資銀行部門の不振とが、同時に起こりやすい環境となっている点も見逃せない」
「リスクフリーである国債についても、金利上昇で含み損が膨らんだ後に、経営不振観測から顧客性預金が流出すれば、含み損が生じた国債を途中売却し、実現損を出さざるを得なくなる。これは、破綻した米国のSVBと同じ構図である」
ただし、クレディ・スイスの経営不安が、他の欧州大手銀行に一気に波及することにはならないだろう、と木内氏は指摘する。
なぜならば、「クレディ・スイスなど大手金融機関は『TBTF(Too big to fail、大きすぎて潰せない)』であり、中央銀行の流動性供給や政府の資本注入を通じて破綻は回避される可能性が高い」からだ。しかし、こう結んでいる。
「今後注目したいのは欧州景気動向である。欧州中央銀行(ECB)による利上げの影響に、足元での銀行不安、金融市場の影響が加われば、この先、欧州経済は減速傾向を強めていくのではないか。その場合には、債券損失、利鞘縮小に加えて、貸出資産の劣化といういわば『三重苦』が生じ、欧州銀行の経営不安はさらに高まるだろう。 その際には、複数の欧州大手銀行に対して、中央銀行や政府による救済策が講じられていき、『銀行危機』の様相を強めていくことも考えられる」
(福田和郎)