SVB1社だけではない、多くの銀行が抱える債券投資の損失
ところで、SVBの破綻は1社だけの問題とどまるのか、それとも米国経済悪化の前兆なのだろうか。
「米国の信用不安がグローバルに波及していくリスクをはらんでいる」と指摘するのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。 木内氏は「シリコンバレーバンク破綻に見る米国信用不安の拡大リスクと金融政策への影響」のなかで、銀行株がグローバルに下落している現状をこう説明する。
「シリコンバレーバンクの経営破綻を受けて、金融市場は他の銀行の経営環境に対する不信も強めている。米国では主要銀行の株価が大きく下落したが、10日には欧州でも銀行株が下落し、さらに同日には日本でも銀行株が大きく下落したのである。米国発のグローバルな信用不安に発展するリスクも垣間見られる」
「この経営破綻を個社要因だけで片づけることはできないのではないか。FRBによる急速な利上げによって、多くの銀行では債券投資の損失(含み損)が広がっている。金利上昇で預金流出は広く起こっているだろう。また、逆イールド化の進展は、すべての銀行の収益基盤を損ねている。さらに、コロナ問題後のテクノロジーバブルの反動の影響は、不良債権の増加など、多くの銀行の打撃となっているはずである」
また、経済悪化につながる兆候が、3月10日に発表された2月分米国雇用統計に見られるという。
「失業率は3.6%と、市場予想の3.4%よりかなり悪化している。また時間当たり賃金は前月比プラス0.2%と、やはり市場予想のプラス0.4%を下回った。チャレンジャー・グレイ・クリスマス社によると1~2月の米企業の人員削減は18万1000人と前年同期の5.3倍にまで膨らんだ。これは、リーマンショック時の2009年以来14年ぶりの水準である。雇用統計での雇用者増加数は事前予想を上回ったが、テクノロジー企業の大量の人員削減の動きが、この先雇用情勢の悪化につながってくる可能性があるだろう」
そして、木内氏はこう結んでいる。
「FRBの大幅利上げの影響が遅れて顕在化し、米国経済を大きく悪化させる、いわゆるオーバーキルへの不安は金融市場で根強いだろう」
「シリコンバレーバンクの経営破綻の影響がこの先どの程度グローバルに波及していくかについては、まだ慎重に見極める必要がある。しかし、米国経済・物価情勢だけでなく、信用不安といった金融面の要因が、FRBの金融政策の見通しと金融市場に大きな影響を与える、新しい局面に入ってきたと言えるのではないか」
(福田和郎)