市場の利上げ見通しは、一気に下がった
一方、今回、米財務省、FRB、FDIC(米連邦預金保険公社)など米当局者が一致して素早い措置を取ったことを評価するのが、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。
市川氏はリポート「米シリコンバレー銀行の破綻が金融市場に与える影響について」(3月13日付) の中で、特にFRBが取った新しい流動性対策を表で紹介しながら、こう指摘した【図表1】。
「今回のSVBの破綻は、流動性管理や金利リスクの管理に問題があったSVB固有の事情が主因であることから、他行も同じ状況と考えるのは行き過ぎた懸念との声も聞かれます。ただ、長期金利上昇による保有有価証券への影響は、広く金融機関に共通します。なお、ニューヨーク州金融監督当局は3月12日、暗号資産関連企業との取引で知られる米銀シグネチャー・バンクの破綻を発表しました」
「このような状況下、米財務省、FRB、FDICは3月12日、SVBとシグネチャー・バンクの預金を全額保護する例外措置を発表しました。また、FRBは同日、SVBの破綻を機に金融システム全体が機能不全に陥る『システミックリスク』を抑制するため、新たな流動性対策(Bank Term Funding Program、BTFP)を発表しました【図表1】。これらの施策は、市場の混乱を鎮静化させるのに大きく貢献すると思われます」
また、SVBの破綻によって、市場の利上げ見通しが大きく後退したと指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏は「SVB破綻で市場の利上げ見通しに大きな変化」の中で、SVB経営破綻前後で米FF(フェデラル・ファンド)金利予想値が大きく変わったグラフを示した【図表2】。
これを見ると、破綻直前の3月8日時点でのFF金利誘導目標上限値(2024年1月)は5.44%だったのに、破綻直後の3月10日時点では4.73%にまで急落している。石黒氏はこう説明する。
「SVB破綻による米金融不安の高まりを受けて、市場の米利上げ見通しは大きく変化しました【図表2】。米国債投資などでの損失が膨らんだことが今回のSVBの破綻につながったとみられています」
「FRBによる利上げが続けば、今後他の金融機関に同様の痛みがもたらされるとの懸念もあり、市場はFRBが金融不安への発展を回避すべく、利上げ再加速には動かないと、見方を変えたようです。市場はSVB問題の余波を巡り不安定な展開が想定されます。ただ、米当局がSVB問題の解決や他の金融機関への波及回避に向け協議を重ねており、米金融不安への市場の警戒感の行方が目先のポイントとなりそうです」