世界的な物価の上昇にともなって生活が厳しさを増す中、中小企業に勤めるビジネスパーソンの給与水準に変化がみられるという。
日本政策金融公庫が2023年2月27日に発表した「中小企業の雇用・賃金に関する調査」によると、給与水準を前年から上昇させた企業が53.1%とおよそ3年ぶりに半数を超えたという朗報なのだ。
一方で、人材不足への対策として「従業員の多能工化」や「残業の増加」で急場を乗り切っている企業の割合が高く、正社員一人ひとりの負担が大きくなっている実態も浮き彫りになった。
正社員の不足感大きい業種...建設業73.3% 宿泊・飲食サービス業72.0%
この調査は、2022年12月中旬までに日本政策金融公庫が取引先の中小企業事業者の計1万3266社を対象に行った。有効回答数は5473社で、回答率は「41.3%」。構成比は、主要なところでは製造業が「36.7%」、卸売業が「14.6%」、サービス業が「11.0%」、建設業が「10.0%」、不動産業が「5.0%」と続いていく。
まずは、従業員の過不足感について経営者に質問した。
それによると、2022年12月時点の正社員の過不足感について、「不足」と回答した企業割合が「58.2%」。「適正」と回答した企業割合は「35.2%」、「過剰」は「6.6%」となった。「不足」の割合は2021年の結果である「53.2%」から5.0ポイントの上昇だ。(図表1-1)
業種別にみると、不足の企業割合が高いのが建設業の「73.3%」、宿泊・飲食サービス業の「72.0%」、運送業(除く水運)の「71.7%」となった。(図表1-2)
建設業は、担い手不足の問題を慢性的に抱え、高卒新卒や大卒新卒に力を入れている。しかしながら、昔は「3K」の職場と呼ばれていたイメージが払しょくできず、職場への定着率の低さと離職率が高いことが課題のようだ。
宿泊・飲食サービス業においても、新型コロナウイルス感染が収まってきた時期ではあるが、人離れがあったことが尾を引いていると考えられる。
続いて、人手不足の影響の質問では、「売上機会の逸失」(40.3%)と答えた企業の割合が最も高かった。次いで「残業代、外注費などのコストが増加し、利益が減少」(24.2%)、「特になし」(17.2%)、「納期の長期化、遅延の発生」(12.5%)という順になっている。(図表3)
また、人手不足への対応を見てみると、ひとりの正社員にさまざまな担当を任せる「従業員の多能工化」で急場を乗り切っているという企業の割合が「43.1%」と一番高い結果となった。このほかには「業務の一部を外注化」(34.4%)、「残業の増加」(30.9%)と続く。
職場の正社員の負担を軽減する「業務プロセス改善による効率化」(24.4%)と「設備導入による省力化」(14.0%)といった人手不足の解消は、軒並み低い結果となった。(図表4)
なお、正社員数の増減については、「増加」と回答した企業は「23.6%」。「変わらない」が「50.6%」、「減少」は「25.8%」となった。「増加」の割合は2021年の「22.4%」から1.2ポイント上昇した。
従業員の増加について、理由は何か――。調査では、「将来の人手不足への備え」(54.7%)が最も高く、「受注・販売が増加」(38.0%)、「受注・販売が増加見込み」(33.8%)、「技能継承のため(従業員の高齢化への対応)」(24.8%)、「新事業・新分野に進出」(21.7%)という順番になった。(図表7-1)
給与水準を前年から上昇させた企業53.1% 半数は3年ぶり
さて、ビジネスパーソンにとって重要な「賃金」に注目してみよう。
2022年12月時点の正社員の給与水準から「上昇」と回答した企業の割合は「53.1%」となった。これは2021年の「41.1%」から12.0ポイントの上昇となり、大きく伸びている。(図表8-1)
業種別にみると、上昇と答えたのは製造業で「58.6%」、非製造業で「49.9%」。情報通信業が「63.8%」とナンバーワン。トップスリーは水運業の「58.5%」、建設業の「55.1%」と続いた。
このほか、正社員の不足が大きい「宿泊・飲食サービス業」で「47.2%」、「運送業」で「39.8%」と、これらの業種では全体からみると低位についた。(図表8-2)
ところで、正社員の給与水準上昇の背景は、なぜだろうか。
「自社の業績が改善」と回答した企業は「27.2%」と最も高い。このあと、「物価の上昇」(19.4%)、「採用が困難」(18.4%)という順位となった。(図表9)
業種別では、「自社の業績が改善」と答えた企業の割合は不動産業が「47.1%」、電気機械「41.0%」、情報通信業「38.9%」、業務用機械「38.1%」、卸売業「33.5%」という順だ。
最後に、2022年の賞与の支給月数をみると、増加と答えた企業は「31.3%」、変わらないは「48.5%」、減少は「14.2%」となっている。増加と答えた企業は、2021年の実績である「30.5%」から0.8%の微増となった。(図表10)
業種別では倉庫業の「43.8%」をトップに、宿泊・飲食サービス業の「37.7%」、卸売業の「34.9%」、水運の「34.5%」、情報通信業の「32.9%」と上位を占めている。
なお、この調査は、2022年12月中旬までに日本政策金融公庫が取引先の中小企業事業者の計1万3266社に質問して回答を得たもの。有効回答数は5473社で回答率は「41.3%」となった。