ハンバーガーチェーン「ロッテリア」の身売りというニュースに衝撃を受けた消費者も多いだろう。ロッテホールディングス(HD)が2023年2月16日、完全子会社のロッテリアの全株式を、4月1日付で外食大手ゼンショーHDの子会社に売却すると発表したのだ。
コロナ禍で持ち帰りや宅配で好調と思われていたハンバーガーチェーンだが、ロッテリアは苦戦していた。売るロッテHD、買うゼンショーHD、それぞれの事情と狙いは?
22年3月期までの5年間で2度の赤字と苦戦 「ロッテリア」ブランドは一定期間、継続の見通し
ロッテHDは、ロッテリア売却について「多様な業態での事業展開を進めるなか、ロッテリアの位置づけについて慎重に検討した結果、最適なパートナーのもとで、ロッテリアのさらなる成長を実現することがベストな選択と判断した」と説明した。売却価格は非公表。「ロッテリア」ブランドは一定期間、継続されるという。
ロッテリアは1972年に東京・日本橋に1号店を出店し、マクドナルド、モスバーガーに次ぐハンバーガーチェーンとしての地位を築いてきた。だが、22年3月期までの5年間で2度の赤字を記録するなど、ここ数年は苦戦が続いていた。
2009年には500を超えていた国内店舗数も、2023年1月時点で358店舗にまで減り、マクドナルド(22年12月時点2967店)、モスバーガー(23年2月時点1274店)に水をあけられている。
定番商品に加えて、季節&期間限定メニュー、ヒット商品が客足を左右
背景にあるのはハンバーガー業界の激しい競争だ。
コロナ禍でも成長を続け、市場規模は現在、7000億円程度とみられるが、この間もシェイクシャック、ベアバーガー、カールスジュニア、ウマミバーガーなど、海外からの進出組の多くは苦戦している。
ロッテリアの不振の原因として「メニュー開発力不足」(業界関係者)を指摘する声が強い。
ハンバーガーは高価格で勝負する一部のチェーンを除くと、「薄利多売」が基本的なビジネスモデルだ。もちろん、「定番商品」による一定のリピーターがベースだが、「季節メニュー」や「期間限定メニュー」を次々に繰り出して、いかにアピールするかが客足を大きく左右するとされる。
この点で、マクドナルドは「月見バーガー」や「グラコロ」など期間限定メニューに定評がある。また、モスバーガーも最近の「グリーンバーガー」など、ヒット商品は多い。ロッテリアも「エビバーガー」や「絶品チーズバーガー」などのヒット商品はあるが、「消費者に訴求する定期的なメニュー開発には強くなかった」(業界関係者)という。
ロッテHDは外食に力を入れてきたが、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」も1年余り前に手放しており、2008年に買収した「銀座コージーコーナー」は残るものの、今後は傘下のロッテが手がける菓子事業の強化に注力するとみられる。
ゼンショーHD、ハンバーガー事業としてはリベンジ 価格面でも大胆な戦略はあるか?
一方、ゼンショーHDにとってロッテリア買収は、ハンバーガー事業としてはリベンジになる。
2002年に当時のダイエーから「ウェンディーズ」を買収したが販売の伸び悩みで、09年に撤退した経緯がある。コロナ禍で、店舗で食べる外食ニーズが落ち込む中、テイクアウトに強いハンバーガー店の魅力が一段と高まったということだろう。
今後、ロッテリアはどのように事業を展開していくのか。
そこでは、牛丼店「すき家」、回展寿司の「はま寿司」、ファミリーレストランの「ココス」など、多様な外食チェーンを抱えるゼンショーHDの総合力をいかに発揮するかがカギを握る。
まず、食材調達や物流などの効率化といった相乗効果が見込まれる。多業種展開ならではの新たなメニュー提案で、弱点だったメニュー開発力の向上も図るだろう。
この物価高騰の中でも、はま寿司は他の寿司チェーンが値上げするのを尻目に、100円メニューを守るなど、ゼンショーHDが低価格にこだわってきたことを考えると、ロッテリアでも同様の戦略をとるとの見方もある。
ゼンショーHDは多くのブランドを展開しているから、個々のブランドの利益率だけで考える必要がないと考えれば、ハンバーガーの価格をギリギリまで下げてくるかもしれない。
ロッテリアがどう巻き返しに出るか、目が離せない。(ジャーナリスト 済田経夫)