世界的に景気後退の危機が迫るなか、「もう日本にも波及しているのか!」と懸念材料になりそうな政府統計が発表された。
2023年3月8日、内閣府が公表した1月の景気動向指数の速報値だ。前月より3.0ポイント低くなり、コロナ禍直後以来、最大の下げ幅となった。
内閣府は、まだ景気は「足踏み」状態との判断だが、エコノミストの中には景気後退の局面入りが近いことを示す数字だと指摘する声もある。どういうことか。
景気の現状、先行きを示す2つの指数が大幅に落ち込み
景気動向指数は、景気全体の現状を知ったり、将来の動向を予測したりするときに使われる経済指標だ。生産や輸出、雇用、金融など、経済に重要かつ景気に敏感な多くの景気指標をもとに指数が算出される。
景気動向指数には、数か月先の景気の動きを示す「先行指数」、景気の現状を示す「一致指数」、数か月から半年程度遅れで反応する「遅行指数」の3つに大別される。
今回、特に注目されたのは一致指数だ。景気に対し、ほぼ一致して動くことから、景気の現状を把握するためには極めて重要な指数となる。
内閣府公式サイト「景気動向指数~令和5年1月分(速報)」や、報道をまとめると、内閣府が3月8日に発表した1月の景気動向指数(2015年=100)の速報値は、一致指数が96.1と、前月よりマイナス3.0ポイントと大幅に低くなった。低下は2か月ぶり。新型コロナ感染拡大直後の2020年5月以来の下げ幅となった。
半導体など部品材料不足の影響を受け、自動車の生産が落ち込み、輸出が停滞する一方、パソコンやスマートフォン向けの半導体や、その製造装置の需要も低迷した。鉱工業生産指数や生産財、耐久消費財の出荷指数などの低下が目立った。
例年1月の輸出は、日本の正月や中国の春節(旧正月)のために落ち込む傾向があり、今年は特に春節が早かったことが貿易赤字拡大に影響したとの見方もある。
一方、景気の先行きを示す先行指数も同0.4ポイント低下の96.5で、3か月連続のマイナスとなった。こちらは、鉱工業用生産財在庫率などの悪化が指数を押し下げた。特に電子デバイスや液晶、半導体メモリなどの在庫率も悪化が目立っている。
ただし、数字から機械的に現在の景気状況を評価する「基調判断」は、従来の「足踏み」のまま据え置かれた。景気後退を示唆する「下方への局面変化」に下方修正する基準と比べると、前月比とのマイナス幅がやや少なかったことなどが理由だ。
1~3月期も、製造業は連続減産に追い込まれるか
しかし、景気の後退局面入りが近いと予測するエコノミストもいる。
第一生命経済研究所シニアエグゼクティブエコノミストの新家義貴氏は、リポート「景気動向指数(2023年1月)~3月分で「下方への局面変化」に下方修正の可能性も~」(3月8日付)のなかで、一致指数と先行指数の推移のグラフ【図表】を示しながら、こう指摘している。
「1月の大幅低下については、中華圏の春節時期のズレにより押し下げられている面もあることは確かである。もっとも、一致指数は直近5か月中4か月が低下(2022年12月は横ばい)していることを考えると、単なる単月の振れとして片づけて良いものではないだろう。輸出が停滞していることから生産活動も足元で弱含んでおり、一致指数にも影響が及んでいる」
「先行きについても下振れ含みだ。2023年1月の鉱工業生産指数は前月比マイナス4.6%と大幅な低下となった。春節要因による下押しがあるとはいえ、低下幅は非常に大きい。製造工業生産予測指数では2月に前月比プラス8.0%の大幅上昇が見込まれているが、予測指数の下振れバイアスを考慮した経済産業省の補正試算値では前月比プラス1.3%にとどまり、1月の落ち込みを取り戻すことはできない見通しとなっている」
こうしたことから、
「『春節要因を均(なら)しても低調』という結果になるとみられ、2023年1~3月期も2四半期連続の減産となる可能性が高い。世界的に製造業部門が調整局面に入っていることから、日本からの輸出も悪化傾向が続く可能性が高く、鉱工業生産も当面低迷が見込まれる」
と、指摘。
5月に発表される3月分指数では、「下方への局面変化」に下方修正される基準を満たす可能性が高い、としている。(福田和郎)