本当にデータ次第だったパウエル議長
タカ派に豹変したかに見えるパウエル発言の裏には「データ重視」の姿勢がある、と指摘するのは第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏だ。
藤代氏はリポート「本当にデータ次第だったパウエル議長」(3月8日付)のなかで、パウエル氏が明確にタカ派に傾斜した背景をこう説明した。
「2月FOMC後に発表された経済指標は、雇用統計が50万人超と記録的増加となったのに続いてISM非製造業景況指数が驚くほど強かった。その後もCPI(消費者物価指数)が前月比で明確に加速し、小売売上高が個人消費の強さを印象付けるなど、総じてみれば景気が粘り強さをみせる中で、インフレが再加速する構図であった。
『データ次第』であると繰り返してきたパウエル議長は、その言葉どおり一連のデータを受けて金融引き締めを強化する方針を示した。『データ全体が引き締めペースの加速を正当化すれば、必要であれば利上げペース加速の用意』、『最新の経済データは予想以上に強く、利上げの到達水準は想定より高くなる可能性が高い』などと発言した」
そして、今回のパウエル発言によって、金利が上昇して2年金利が5%に到達したことで、短期金利が長期金利を上回る逆イールドカーブ(利回り曲線)が深化したことが要注意だと指摘する。
長短金利差の逆転現象は、長短金利差で利ザヤを稼ぐ銀行の収益を悪化させるため、銀行の貸出態度が厳格になるからだ【図表1】。
藤代氏は、こう結んでいる。
「貸出態度の厳格は、企業の信用コスト増加(一例として社債利回り上昇)、および資金繰り悪化を招くことで倒産・失業を増加させてきた。最近の銀行貸出厳格化に鑑みると、ハイイールド債(高利回りで格付が低い債券)利回りは楽観的過ぎるようにみえ、失業率は急上昇する可能性がある。
言わずもがな金融引き締めが一段と強化されるのであれば、経済・金融市場への打撃は大きくなる。当面、米国株には慎重姿勢が要求される」