日本の「失われた10年」にそっくり、中国がたどる運命
一方、中国では経済活動の実質的な実務を担い、国民生活を支えている地方政府の深刻な財政危機に警鐘を鳴らしているが、公益財団法人・日本国際問題研究所客員研究員の津上俊哉氏だ。
津上氏は、リポート「3期目習近平政権は地方財政改革を急げ」(3月3日付)のなかで、「隠れ債務」も含めてどんどん膨れ上がる地方政府の債務状況をグラフで示した【図表2】。
津上氏によると、地方政府は過去10年、インフラに過剰な投資を行なったり、コロナ対策の景気下支えのために大量の地方債を発行したり、さらに「シャドーバンク」(影の銀行)から借り入れたりして、莫大な借金を背負い込んでいる。
公式の統計には載らない「隠れ債務」が正式の債務の1.5倍以上あるが、最近、中国人民銀行と密接な協力関係にあるIMF(国際通貨基金)の推計によって、借金まみれの地方政府の実態が明らかになったのだ【再び図表2】。
習近平政権指導部が抜本的な対策を打ち出さない限り、地方政府は2026年には金利だけで5兆元(約100兆円)以上を支払わなければならない。これは、日本の政府予算(2023年度一般会計予算案)が過去最大の114兆円だから、いかにケタ外れの額かわかるだろう。行き詰る恐れは極めて高い。
地方政府がかくも借金漬けの財政難に陥った原因はなんだろうか。
「1つは、地方指導者が出世するために経済成長率を他地域と競わされることだ。成長率を上げるために投資を増やす、そのために借金を重ねる...あげくがこんにちの地方の過剰債務だ。
2つめは、中央政府が地方政府にやらせる仕事は増える一方なのに、それに必要な安定財源を地方政府に十分与えてこなかったことだ。地方はやむなく土地払い下げ収入と借金に財源の多くを頼ってきた。地方政府が土地を高く売ろうとする...あげくがこんにちの不動産バブルだ」
すでに財政危機が深刻化した武漢市や大連市では、医療保険の給付が削減されたため、高齢者のデモが起こる騒ぎに発展している。
津上氏はこう結んでいる。
「一部地方で年金の遅配や地方銀行の流動性危機などが生ずる恐れが高まる。それが社会、経済の安定にどれほどの悪影響を及ぼすかを考えれば躊躇している暇はない。
その弁済は中央が肩代わりすべきではないか。そうすれば中央の財政赤字は大幅に拡大するが、救いは、中央財政は地方とは対照的にまだ健全であることだ。
難点は、その道は日本の『失われた10年』にそっくりで、心理的抵抗が強いことだが、リストラの痛みが大きいのも、ゼロ成長も堪えられないのなら、この道を選ぶしかないのではないか。
少子高齢化といい、借金頼みで景気や財政を維持する姿といい、中国は過去の日本にますます似てきた。『日本に学びたい(反面教師として)』と繰り返し言ってきた中国だが、『何を学んできたのか!?』と詰問したくなる今日この頃だ」
(福田和郎)