2025年、32万人が不足する介護人材...求職者1人に事業所4カ所殺到の「争奪戦」

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   年々、ニーズが高まっている介護福祉関連の事業所。しかし、2019年度に211万人いる介護人材は2025年度には32万人不足すると言われている。本書「介護福祉業界の採用ノウハウ」(日本橋出版)は、成功している福祉事業所の採用ノウハウをわかりやすくまとめた本だ。

「介護福祉業界の採用ノウハウ」(繁内優志著)日本橋出版

   著者の繁内優志さんは、神戸大学を卒業後、医療機器メーカーを経て大手人材会社に入社。福祉事業者向けの採用コンサルティングなどに携わった。

求職者に選ばれる採用メッセージを

   本書によると、社会福祉施設は全国に約8万カ所あり、コンビニの数より多く、他の事業所との差別化が求められる時代だという。福祉業界の有効求人倍率は4倍を超え、求職者有利の採用市場になっている。そのため、求職者に選ばれる採用メッセージが必要になる。

   まずは、採用活動のためのホームページを作ることから勧めている。簡単な求人概要だけのものでは、事業所への興味関心がわきづらいものだ。そこで、タイトルと写真、メッセージで求職者の関心を引き付けることがポイントだ。

   さらに、採用パンフレットも欠かせない。基本的には、業界未経験者をターゲットとして作ることを勧めている。なぜなら、業界未経験者向けのものは、業界経験者にも使えるが、逆に業界経験者向けのものは業界未経験者には使えないからだ。

   その際のポイントを以下に挙げている。

・「福祉業界とはどういった業界か」ということについて簡単に記載がある
・「事業所の採用メッセージ」についての訴求がある
・「1日の仕事の流れ」についての説明がある
・「他事業所との差別化ポイント・特徴」についての説明がある
・「様々なパターン(職種ごと・世代ごと・性別ごと)の職員の声」の記載がある
・「キャリアパスや教育研修制度・待遇」についての記載がある
・全ページに文字情報以外に「カラーの写真や絵」が多く使われている
・事業所への「求人応募方法・連絡先」が明記してある

【新卒採用】ターゲットごとの採用ノウハウがある

   次に、ターゲットごとの採用ノウハウを説明している。

   新卒採用のターゲットは、高校生、福祉系の専門学校生、福祉系以外の学部の大学生、福祉系学部の大学生の4パターンある。即戦力人材が欲しいため、福祉系の専門学校生、大学生を採用したいと思うところだが、福祉系の学生は採用難易度が高いそうだ。

   たとえば、高校生を採用するには、就職担当の教師の理解が重要になる。ために、福祉業界が就職先として、「いい業界」であることを認識してもらう必要があるという。定期的な営業活動のほか、無料で職場見学の受け入れや福祉に関する授業を行うなどの啓発活動も大切だ。

   福祉系以外の一般学部の大学生を採用する場合は、就活サイトによるアプローチが一般的だ。福祉業界と相性がいいと言われている学部として、栄養系、音楽系、美術系、スポーツ系、心理・人間科学・社会系の学部、家政・宗教・生活系の学部を挙げている。

   意外なのは、福祉系学部の大学生の就職状況だ。せっかく福祉系学部を卒業しても、福祉の現場に就職する学生の割合は大学によっては半分以下になるというのだ。

   実習先で福祉業界を嫌いになってしまう、もしくは、そもそも福祉系の仕事を志望していない、というのが実態だそうだ。実習先の福祉事業者が学生への対応をきちんとできず、ネガティブな印象を与えてしまうことが原因だという。

   実習に学生が来ているのに、それが当該法人の就職につながっていない福祉事業所は、自身の対応を大きく見直す必要があるという。きちんとした受け入れ体制が整うまでは、実習を他の事業所に譲る勇気も必要だ、と問題提起している。

【中途採用】未経験者に知ってもらうには?

   中途採用についても、正規雇用と非正規雇用に分けて、解説している。

   未経験者の場合は、福祉業界が自分たちを採用対象として見ていることを知らないことが多いという。そのため、「実際に未経験からリーダーになった職員の声」といったように求人原稿で強調することを勧めている。

   非正規採用かつ未経験者の採用メッセージで必要な要素として、「シフトの時間、自由度、時給、1日の仕事の流れ、内容、やりがい、事業所へのアクセス、未経験・無資格でも始められる教育研修制度、フォロー体制」などを挙げている。

   福祉業界でこそ検討してほしい採用手法の一つが、リファラル(知人紹介)採用だ。採用コストが低い、定着率が高い、従業員の帰属意識を高められるなどのメリットを挙げている。

   職場に浸透するまで時間がかかるため、中長期的な施策として考えること、従業員へリファラル採用を推奨するためのツール(カードなど)を用意すること、従業員へのインセンティブ(数千円~数万円)を用意することが必要だという。

   このほか、シニア採用、ボランティア採用、外国人採用、利用者の家族や親族の採用のノウハウについても触れている。

   さまざまな成功事例も興味深い。

   「ペットと一緒に働ける職場としてPR」「カフェを運営することで、主婦層へPR」「卓球台や筋トレ器具を設置し、体育系学生を確保」「『福祉の仕事』を切り出して、清掃職やリネン職、配膳職として仕事をPR」など、33の事例を紹介している。こうした取り組みを通じて、福祉の現場は支えられているのだ。

   涙ぐましいと思う一方で、アイデア次第で職場の魅力を増すことは可能だと思った。新型コロナ感染が落ち着いたら、経済環境が良くなり、飲食、宿泊など他の業界との採用競争が激しくなることが予想される。

   それだけに、こうした採用ノウハウは、介護福祉業界以外の人事・採用担当者にとっても、参考になりそうだ。(渡辺淳悦)

「介護福祉業界の採用ノウハウ」
繁内優志著
日本橋出版
1980円(税込)

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