実(みの)るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな...。日本の大金持ちは謙虚な人が多いようだ。
野村総合研究所(東京都千代田区)は2023年3月1日、「日本の富裕層に関する推計調査」を発表したが、1億円以上の純金融資産がある「富裕層」は149万世帯で、過去最多に達した。
ネット上では、涙ぐましい努力の投資活動の結果、「億り人」になった人々から生々しい生活実態の投稿が相次いでいる。
「アベノミクス」が増やした日本の富裕層
野村総合研究所では2005年から2年ごとに「富裕層の推計調査」を行っており、今回(2021年)の調査は9回目だ。純金融資産1億円以上を富裕層としているが、具体的には次のように推計する。
預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から不動産購入に伴う借入などの負債を差し引いた「純金融資産保有額」を基にしている。
計算に使うデータは、国税庁「国税庁統計年報書」、総務省「全国家計構造調査」、厚生労働省「人口動態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」、東証「TOPIX」、さらに野村総合研究所が行ってきた「生活者1万人アンケート調査」や「富裕層アンケート調査」などだ。
そして、総世帯を5つの階層に分類し、それぞれの世帯数と資産保有額を推計した。結果は、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」(全体の2.6%)が139万5000世帯(総資産保有額259兆円)、さらにその上の同5億円以上の「超富裕層」(0.2%)が9万円世帯(同105兆円)となった【図表1】。
次いで、同5000万円以上1億円未満の「準富裕層」(6.0%)が325万4000世帯(同258兆円)、同3000万円以上5000万円未満の「アッパーマス層」(13.4%)が726万3000世帯(同332兆円)、同3000万円以下の「マス層」(77.8%)が4213万2000世帯(同678兆円)と続いた【再び図表1】。
2021年の富裕層・超富裕層の合計世帯数は148万5000に達し、この推計を開始した2005年以降、最も多かった2019年の132万7000万世帯からさらに15万8000世帯増加して、過去最高となった【図表2】。
富裕層・超富裕層の世帯数や資産総額は、いずれも2005年から2011年までは増減を繰り返していた。ところが、安倍晋三政権の経済政策(アベノミクス)が始まった2013年からは、一貫して増え続けている【再び図表2】。
これは、株価上昇の影響が大きい。たとえば、アベノミクスが始まった2013年4月当時の日経平均株価(月平均終値)が1万3224円だったに対し、現在(2023年3月1日プライム終値)は2万7516円と、2倍以上に跳ね上がっている。
また、株式などの資産価格の上昇により、富裕層・超富裕層の保有資産額が増大したことに加え、金融資産を運用(投資)している準富裕層の一部が富裕層に、そして富裕層の一部が超富裕層に移行したと考えられるという。
この結果、富裕層・超富裕層は合計世帯数では全体の2.8%なのに対し、日本の全資産の22.3%を占めることとなった。また、超富裕層に至っては、世帯数が全体の0.2%なのに対し、全資産の6.4%を確保している状態だ。ちなみに、マス層は世帯数が全体の8割近い77.8%だが、全資産の4割近い41.5%を分け合っている状況だ【再び図表1】。
野村総合研究所では、こうコメントしている。
「2021年にはコロナ禍においても、日経平均株価はバブル崩壊後の高値を更新するなど運用環境は好転したものの、現状では状況が悪化している経済指標も見られ、今後の富裕層・超富裕層の世帯数や純金融資産保有額に影響を与える可能性があります」
食事・旅行中でも、儲かるビジネスはないか、何か投資先はないかばかり考えている
今回の調査結果について、ヤフーニュースコメント欄ではさまざまな意見が寄せられている。
「金融資産が増えることは結構なことだが、消費意欲の低い高齢者層がここ20数年牽引する形だ。それに見合って、政府部門の負債が増えているのは周知のとおり。経済の成長は、資金が早い回転で使われ、フローである売上が増えることで、使われないままでは意味がない。本当に必要なのは特に子供を抱える世代だが、お金が上手く行き渡るような仕組みにはなっていない」
「結局、日本人の富裕層は50代、60代以上の人が多いのですよね。20代、30代に限って見たら、億の資産を持っている若者は限りなく少ないでしょう。つまりは『高齢化』が、富裕層が増えた最大の要因ともいえる」
「格差が広がっている、ということでしょうね。この国では大きな声で言いにくい『お金を稼ぐ』や『お金を増やす』ことを考えて生きている人と、そうでない人に分かれていくのだと思う。お金を稼ぐ、増やす人はスキルを身に着け、投資も情報収集などが必要なわけで、そこに時間と労力を使っているかどうかの違い。格差は当然かもしれない」
富裕層になることを目指しているかどうかは別にして、投資をしている若い世代からは、資産を増やすことに無理解な日本社会に批判的な意見が多かった。
「株式投資を5年前からやっています。FP(ファイナンシャル・プランナー)2級を取ったり、YouTubeなどで日々投資の知識も入れたりしています。2024年からの新NISAにもかなり期待しています。投資は資産を増やすなら必須だと思っています。ただ、頑なに定期預金を辞めない人が周りにたくさんいます。投資の話やお金の話をすると空気がおかしくなるので向こうから聞かれた時以外は投資の話や節税の話はしないようにしていますが、機会損失だなあともったいないなぁと、感じてしまいます」
「自分も投資の話は誰にもしません。資産を増やすなら株式投資は必須ですし、これからの時代はお金にも働いてもらわないと、貧乏になるだけなのに。自分は、コロナで暴落し少し落ちついた2020年4月に、バーゲンセールになった割安中小型株に、貯金をすべて投入し全力買いし、東証が3万円になったところで、いったんすべて利確。
資産がマス層から準富裕層に大幅に増えました。日本人って、努力もせずに人の批判ばかりで、金融リテラシーの低い人が多すぎる。円の定期預金は安全だと信じ込んでいる人が多く、驚き。インフレでお金の価値が下がっているから、定期預金では実質元本割れしているのに。株式投資やらない理由がわからない」
「食事に行っても、旅行に行っても、儲かるビジネスはないか、何か投資先はないかと考えている。またそれが苦にならない。ゲームをする、音楽を聴く、スポーツをするなどのことを楽しく思う人たちと一緒。情報チェック、収集の時間も楽しく過ごしている。
なぜお金のことになると、ひがみ・ねたみが多くなるのか。時間もチャンスもみんなにある。苦しい時、あきらめそうになる時、水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ』を口ずさんで、あきらめずに一歩一歩歩んできた」
3億円あるけど、青春切符と全国旅行支援で国内旅行するのが夢
そして、「富裕層」を達成したという人たちからのカキコミには、こんな感慨の声が――。
「億り人、いつのまにか達成していました。夫以外だれにも言っていませんが、なにか深い感慨と、それでも普段となにも変わらない暮らし。値引き商品をスーパーで買って、献立を考え、子どもからはうちは本当に貧乏だと言われていて、それでも『貧乏上等』と、つましい生活をありがたく送る日々です。
まずは寄付をしたい。子どもがお世話になっている野球のボーイズチームに、わずかですが寄付しました。連盟に100万!の寄付をするのが目標です。億り人になれたのも、世の中の皆様のおかげなのですから」
「いま海外事業をしていて、このカテゴリでいうと一番番上ですが、実際はこの一番上の格差がホントに半端ない。それなりにお金を稼いでいるはずなのに、普段半端ない金持ちとばかり接していると、なんかスケールの違いに悲しくなることのほうが多いです。そして、別にそんなにもお金って必要ないし。正しい贅沢の仕方がわかる人は相当品のいい人だと思う」
「自分は現在アラフィフで、3億円強の純金融資産があり、いちおう富裕層ですが、正式に就労し始めた30歳時点では500万円程度でした。高収入を得て預貯金を積み上げた結果、20年程度でここまで蓄積できました。敗戦国から数十年で高度成長を遂げて、短期間で富を蓄積した日本国と似ています。
私自身は、普段からユニクロの服を着て、古い国産車に乗り、半額惣菜・弁当、安い野菜・果物をまとめ買いをするなど、生活は至って質素です。最近顕著ですが、金を持っていると分かると、押し込み強盗や詐欺犯に狙われるので、十分注意すべきです。配当と預金利息は、すべて娯楽費に使っています。3月は青春切符と全国旅行支援を使って、いろいろと国内を巡りたいですね」
ちなみに、この投稿には、相反する2つの意見が寄せられた。
「すばらしいですね。勝ち組や富裕層が堂々と幸せを語ることは大変よいことだと思います。この手のコメントは私まで幸せになります。これからますます青春を楽しんでくださいね」
「資産3億円強の富裕層だったら、青春切符なんて使わないで新幹線グリーン車で旅行しろよ。そうやって世の中に金を回すのが金持ちの役目だぞ。ちょっとくらい贅沢しても、配当収入も入ってくるわけだから3億円はなくならないだろ」
(福田和郎)